アク・トンパ物語 

国王の娘と寝る 

 

 チベットのずっと遠い田舎を旅していた少年時代のトンパおじさんは、ある小さな王国に到着しました。若きおじさんは、その国の王の娘がとても美しく、しかも処女であることを知りました。その美貌ゆえ、多くの男たちが彼女と結婚したいと願いました。若きトンパおじさんだって例外ではありません。できれば彼女の夫になりたかったのですが、そうでない場合でも、彼女と寝ることができればと思いました。

 ある日トンパおじさんはボロボロの服を着て、王宮の門の横に立ちました。彼はそこで何日間も待ち続けました。ようやく馬に乗った国王が王宮から出てきました。坐っていたおじさんは立ち上がり、お辞儀をすると、国王に、王宮内に何か仕事はないかと聞きました。

「おまえは何ができるのだ?」国王はおじさんにたずねました。

「国王さま、王宮の寝室専用の掃除人ならうまくやれると思います」

 国王は寝室清掃係の仕事を若きおじさんに与えました。

 おじさんはその仕事を数日間つづけました。ある朝彼は箒(ほうき)を持って国王の寝室に入ってきました。国王はおじさんに聞きました。

「おまえ、名前は何ていうのだ? 名前をまだ聞いてなかったな」

「国王さま、わたしは名前を言うのを差し控えさせていただきます。なぜなら名前があまりにもひどくて、口にするのも恥ずかしいような代物だからです」

「しかし名前は言ってもらわにゃ困る。言えないのなら、呼び名でもいいぞ」

「わたしの両親はなんとわたしに魔羅(おちんちん)と名づけたのです」

 それ以来国王は彼のことを魔羅(おちんちん)と呼ぶようになりました。翌日おじさんは掃除をするために王妃の寝室に行きました。彼女は入ってきたおじさんに名前をたずねました。

「わたしは名前を言いたくありません。なぜならそれはとても悪い名前で、口にするのがはばかれるからです」

 王妃は執拗に話すよう迫ったので、根負けしたトンパおじさんは名前を口にすることにしました。

「わたしの名はマンコです」

 それ以来王妃はトンパおじさんをマンコと呼ぶようになりました。

 のちにおじさんは国王の娘の部屋にも掃除をしに行きましたが、やはり同様に名前をきかれました。おじさんは娘が豆ばかり食べていることを聞いていたので、「わたしの名前はお豆です」と答えました。

 ある晩、おじさんは娘のベッドの下に隠れました。彼女がベッドに入ると、おじさんは下からベッドをよじ登って彼女をつかむと、襲いかかりました。彼女は恐くなり、叫びました。

「お母さん、お父さん、お豆がひどいの! お豆がいけないの!」

 母親の王妃は娘に向かって叫びました。「だから言ったでしょ! そんなにお豆を食べてはいけないって! 食べすぎるから夜、困ったことになるのよ! 医者を呼ぶくらいしかできることはないわ!」

 娘はまた叫びました。「ああ! お豆には困ってしまうわ!」

 母親は娘の様子を見に娘の寝室に行きました。

 彼女はマンコがわが娘を襲っている場面を目撃し、仰天して叫びました。

「ああ、なんてことを! マンコが困ったことを……。マンコが娘になんてことを!」

 ゴタゴタを聞いた国王は彼らに向かって叫びました。

「なに大騒ぎしているのだ? マンコが困ったってどういうことだ?」

 ついに国王も娘の寝室に駆け込みました。国王が寝室に入ると、魔羅は娘から飛びのいて、窓から逃げていくのが見えました。

 国王は叫び声をあげ、銅鑼を鳴らして警備兵を招集しました。彼らはすぐにやってきて、国王の前にひざまずきました。国王は彼らに命じました。

「魔羅(おちんちん)だ、魔羅。外に出て魔羅をつかまえろ!」

 警備兵たちはすぐに中庭に出て並び、彼ら自身の魔羅(おちんちん)を出してつかみました。

 国王が中庭に出ると、警備兵たちがこんな愚かなことをしていたので、あきれて何も言えませんでした。しかし怒りがふつふつと湧いてくると、彼は叫びました。

「おれは魔羅という名の男をつかまえてこいと言ったのだ!」

ようやく彼らは国王が言わんとすることを理解することができました。警備兵たちはいっせいに走り出して、トンパおじさんのあとを追いました。しばらくすると彼らはおじさんを取り押さえ、王宮まで引っ張ってきました。

 国王は娘を強姦した罪で、魔羅(おちんちん)を公開処刑するよう命じました。

すべての家臣が集まってきたところで、いよいよ処刑が実行されようとしていました。おじさんは最後の懇願の叫び声をあげました。

「ああ、国王さま、最後のお願いです! 聞いてください! わたしの死は間近です! わたしは自分が死のうが死ぬまいがどうでもいいと思っています。しかしわたしはあなたの娘と寝たのです。あなたの娘が妊娠したのは間違いありません! 生まれてくる子供が男の子か女の子かはわかりません。しかしあなたの娘がもう王女と呼ばれなくなるのはたしかです。もし生きた夫がいなかったら、娘さんは「やもめ」と呼ばれるようになるのです」

国王は魔羅が言うことにも一理あると考えるようになりました。そこで彼は命じました。

「待て! 処刑は延期だ」

 国王は注意深く考えました。そして彼を釈放することにしました。数か月のち、トンパおじさんは国王の義理の息子になりました。