37の精霊(ナッ)
ミャンマーではもともと「36の精霊」が一般的だったが、バガン王朝を建てたアノーヤター王(11世紀)が権力を誇示するため、仏教の守護神タギャ(サクラ)を加え、37とした。36というのも象徴的な数にすぎず、実際、ミャンマーには百を超える精霊が存在する。
タウンビョン兄弟(シュウェピンギとシュウェピンゲ)
マヌハ王の時代(11世紀)、ふたりの息子を連れたイスラム教徒が難破し、都のタトンに漂着した。兄弟の名はアブラハム(ビャトウィ)とイブラヒム(ビャッタ)といった。兄弟のみ寺の僧によって助けられた。
そのすこし前、ある僧が修行者にして呪術師(ゾーギ)の死体を得た。薬として使うためである。ところが僧が留守にしている間に兄弟は死体を盗み食いし、そのため超人的な力を会得してしまったのである。兄弟は寺を上下さかさまにしてみせたりして、僧たちを驚かした。マヌハ王はそのことを聞き、兄弟を捕まえた者には懸賞金を出すというお触書を出した。
だれかが計略を思いついた。兄弟に女のスカートの下をくぐるよう仕向け、兄ビャトウィはそのためパワーを失い、捕らえられて殺された。彼の内臓は町の四隅の壁の下に埋められ、守護霊となった。
いっぽう弟ビャッタは逃げる途中、バガン王アノーヤターがマヌハ王の持つ三蔵を入手すべく派遣した四人の兵士に出会った。ビャッタは四人の兵士とともにタトンに入ろうとしたが、守護霊となったビャトウィにはばまれた。しかし弟ビャッタの夢の中に兄が現れ、壁の抜け穴を教えた。こうして彼らは聖なる経典を持ち帰ることができた。
ビャッタは王に認められ、花担当の長官に命じられた。おもな仕事は毎日ポッパー山に行き、花をバガンに持ち帰ることだった。あるとき彼はメクウンという花食べの魔女と恋に落ちた。ふたりの間にうまれたのがシュウェピンギとシュウェピンゲだった。ビャッタは妻と子どもを愛し、なかなかバガンに帰ってこなかったので、怒った王はビャッタを処刑した。
アノーヤター王は中国にあるという仏陀の犬歯を手に入れたいと考え、兄弟を招集しようと考えた。王は家臣に魔法の杖を与え、それでポッパー山の麓の地面を叩くと、兄弟と母親が転げ落ちてきた。彼らが兄弟を連れ去ったので、母親は悲しみのあまり死んでしまった。彼女は精霊となり、ポッパー・メドーという名で知られる。
兄弟の獅子奮迅の活躍で中国の精霊に守られた犬歯を奪うことができた。それは白象に載せられて凱旋した。白象が止まり、跪いた場所がタウンビョンであり、王は記念してそこにパゴダを建てた。
そのあとの話は省略するが、この兄弟も殺され、精霊になった。