正体を見破られる

 翌日の正午、カツェ寺の高僧が訪ねてきた。この僧の首の後ろには瘤があるので、面識のあることが思い出された。彼はマニ車をまわしながら、ゆっくりと近づいてきて、私に問いただそうとした。私はすでにカム方言がしゃべれるようになっていたので、「私はカムからやって来た巡礼者です」とカム訛りで語りかけたが、僧は私の顔をしげしげと眺めると、突然私の衣の襟をつかんだ。そして、おおっと声をあげると、嗚咽しはじめた。

 私は言った。「やめてください。私はカムから来た一介の巡礼者にすぎません。だれかと勘違いなさっておられるようですが」。

 しかし私の声がますます彼に確信をもたらしたようで、「私にはわかっております!」と叫び、足もとにひれ伏した。彼はこの秘密は誰にも明かさないと約束した。私はこうしてここに一ヶ月以上も滞在することになった。高僧は私のためにさまざまなことを取り計らってくれ、いろいろと気づかってくれた。例の水瓶の老僧もまたやって来て、先の失礼を詫びた。



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