アガルタ 

15 魔法の建物 

 

 ランチタイムなのか、ディナータイムなのか。時間は存在しないので、そして太陽は地上における太陽と異なるので、何事も決定するのがむつかしい。だけどそれでもおなかはグーグー鳴る。

 レックスの案内でぼくたちはテロス郊外の村のカフェ近くに着陸した。ぼくたちは坐り、おなかが減った子どもたちのためのメニューを決めたあと、自分たちの分を注文した。

「どうやって払うのかしら。ここに来てからだれかが財布を出すの、見たことないわ。お札もコインもないの?」この点を指摘したのはおばあちゃんだった。

「ここでの支払いは違うんです」とレックスは話しはじめた。

「現物払い?」おばあちゃんは目を輝かし、笑いを押し殺しながら、さえぎった。「あたしみたいな老いぼれにはわからんけど」

「おばあちゃん!」ぼくは声を荒げた。「テロスにお金ってものはないんだよ。奉仕あるのみ。お互いに調達しあうんだ。物を交換するんだ。浪費はなし。お店のかわりに交換のための集合エリアがあるんだ。見てのとおりよく組織されているよ」

 おばあちゃんは見るからにおいしいケーキを楽しんでいた。子どもたちは出されたものすべてをがつがつと食べていた。

「食べ物は生き残るためには必要不可欠だ」サンジェルマンはほほえみながら言った。「アガルタでは食べ物は配給されている」

「地上ではお金を払わないかぎりもらえないですけど」エドムンドは言った。「チョークとチーズほどにも違います」

 ぼくたちはホバークラフトに乗って未知の地域へと旅をつづけた。

 つぎの地に降り立ったとき、ぼくたちはとても驚いた。山腹に降り立ったのだけど、その横にあった建物が驚くべきものだった。それは丸いというより楕円形の建物で、たくさんの宝石がきらきら光っていた。それは緑色に輝いていた。「翡翠寺院(ジェイド・テンプル)だ」とサンジェルマンは説明した。

 とくに何かの様式にあてはめることはできなかった。妖精物語に出てくる塔と小尖塔を持ったお城のようだった。装飾は必要性によってというより、あとからの思いつきによってなされたようだった。非常にうつくしかった。

「あなたがたには教会がある」ぼくたちが降り立ったとき、彼は言った。「われわれには瞑想のための建物がある。あなたが望むとき、いつでも黙想の時をたのしむことができる。なかに入ってみましょう」

 寺院の外観に魅了されてしまったので、なかに入る気になかなかならなかった。それはいままで見たことのないものだった。なかはまるで生きているかのようにきらめき、輝いていた。

「わたしはいつもUFOに興味を抱いてきました」ほとんどしゃべらなかったエドムンドが声を上げた。「これは倒立したUFOを想起させます。ほかの惑星のことなど想像できるでしょうか。わたしたちはいまも地球にいるのです。なんだか奇妙なことです」

「ここはほんとうに奇妙なものばかりだな!」レックスは元気よく言い放ち、しぐさで荘厳なる宝石がはめられたドアのほうへ入っていくよううながした。真珠門ってとこだな、とぼくはニンマリとしながら考えた。

 内部はエキゾチックだった。壁を覆う宝石から放たれた鈍く輝く光が部屋中を照らしていた。部屋には安楽なソファやベルベットのような素材で裏打ちされたイスがたくさん置かれていた。人々は瞑想に没頭したり、ただ休みをとったりして坐っていた。ぼくたちは互いに向き合った二つのソファを見つけ、そこへ向かった。

 子どもたちはじっと静かにしていなければならないことを理解し、魔法をかけられたかのようにおとなしくなった。彼らは目を閉じ、両手をあわせた。この建物群が「神の愛の家」と呼ばれていることを、そして建てられてから数千年たつことをぼくは知っていた。それらは言葉では表現できない何か魔術的なものを持っていた。

 音楽がやさしく奏でられ、芳しい香りが空間に満ちあふれていた。目を閉じるとぼくは忘我の境地にいざなわれた。

 しばらくすると部屋の中央に男と女が立っていた。彼らはテレパシーでぼくたちに話しかけてきた。声はなかった。しかし彼らは順繰りにはっきりとぼくたちの頭の中に話しかけてきた。ふたりとも背が高く、体つきがよかった。女の髪は長くブロンドで、男の髪は長くワタリガラスのように黒かった。彼らはカフタンのようなドレスをまとっていた。男の衣装はその縁がぴかぴか光り、刺繍がほどこされていた。女の衣装はピンク、男の衣装は緑だった。

「神の愛の家へようこそ」男が英語で言った。少なくともぼくには英語に聞こえた。「この静かで心安らぐ聖域において、あなたは思考によって熱狂的なダンスを終息させることができます。そして感覚と気持ちを優勢にさせることができます。自分がだれであるか、内側を見るいい機会なのです」

「あなたは自分であると考えている自分ではないかもしれない!」透き通った女性の声が高らかに言った。「自分自身にたいして正直でありなさい」

「あなたたち子どもはカーテンの後ろで待っている物語とお菓子を見つけるでしょう」子どもたちはただちに消えた。テレパシーによることばは男の声でつづいた。

「あなたがたは新参者です。大歓迎です! あなたがたが今いる母なる地球の一地域の特別な貢献について説明しましょう。もしいまだに地球が堅固で、あなたが夢を見ているなら、それは幻想だとして安心させることができましょう。しかし北極と南極で外とつながる、自身の太陽と美しい自然を持った巨大な内なる空洞は存在するのです。そこの人々は古代の文化を保ち、大いなる富のなかで暮らしているのです」

「わたしたちの都はシャンバラといいます」と女性の声が引き継いだ。「そこは地球の中心です。わたしたちのエネルギーは自由であり(フリー・エネルギー)、無尽蔵なのです。住人はあなたがすでに利用しているホバークラフトに乗って移動します。というのもわたしたちは自然を守り、あるがままの姿で成長してほしいからです。地球内部すべてにトンネル・システムが張り巡らされています。何世紀もの間、よく計画されたコミュニケーション・ネットワークが保たれてきました。エネルギーは水晶の電磁力から得られます。それは50万年持続するのです」

「地殻の厚さは800マイル(1300キロ)といいます」男はつづけた。「地球の磁場は地上の科学者にとってつねに謎なのです。地球内部の中央で輝くわれわれの太陽はミステリアスなパワーの源であり、そこから地球の磁場が生じているのです」

「今日、アガルタへの入り口は地球のあらゆるところにあります」女はほほえみながら割り込んだ。「わたしたちは接触をもつことができます、あなたがたがわたしたちの存在を知っているかぎり。ともかく、接触があることは知っています。アレクサンドリアの図書館に入り口がありました。でもそれは紀元前47年に焼き落ちてしまいました。ここアガルタにわたしたちは何百万人も住んでいます。しかしこの二百年、地上から受け入れたのは50人だけでした」

 男が付けくわえた。「わずかな期間ですが、あなたは巨大なライブラリー、ポルトロゴスを訪ねました。それは実際エーゲ海の真下にあります。文字通りそれは魔法がかけられているかのようです。それは学問の府、世界大学です。魔術の基地です。芸術やもっといろいろなテーマのためのセンターです。すべての秘密を解くには、途上の時間は十分ではありません。しかしわれわれは数百年生きることができるので、秘密を学ぶ機会がもっと多いのです」

「あなたがたはここの住人に興味があるようですね」女がたずねた。ぼくたちはうなずいた。「わたしたちはあなたがたとよく似ています。しかし背が高いのです。よい食べ物とすばらしい考え方によってわたしたちの若さは保たれ、寿命がのびるのです。1万2千年もわたしたちはベジタリアン生活をつづけています。これによってわたしたちの体形は保たれているのです。わたしたちはあなたがたを教えることになるでしょう。地上に行って援助を申し入れるという計画があります。スケジュールはまだ決まっていませんが、急を要しています。すでにインフォーマーは送ってあります」

「われわれは何時間もつづけることができます」と男が言った。「でもいま行くことはできません。だからあなたがたにこの巨大な大陸を自身で体験していただきたいのです。本を読んで知るのではなく、たとえ短時間でも、中を飛行して知ってもらいたいのです。前もってテロスとその地域が、地上生活者が本当にくつろげる唯一の場所であることを知るべきなのです。まだ開発されていない森や野原、山々、アガルタの大半を覆う海がたくさん残っています。あなたがたは多くの植生を認識できるでしょう。

 多くの町は五次元的です。そこへ行く前にそのことを学ばなければなりません。ポルトロゴスであなたがたは多くの時間を過ごしました。またその周囲を旅してまわりました。地上からのもっとも新しいグループであるあなたがたと、ともにアガルタのことを学んでいきたいと思います。尊敬すべき友人でありマスターであるサンジェルマンがあなたがたといっしょだったことは誇りに思います。あなたがたが気持ちのいい旅をつづけられるようわれわれは最大限の努力をします」

「ここからエレベーターでポルトロゴスへ行くことができます」女はそう教えた。「レックスが誘導してくれるでしょう。子どもたちはつねにそばに置きたいとお考えでしょう。一種の学校のようなものがあり、あなたがたがアガルタを探索する間、子どもたちはそこに滞在し、勉強することができます。あなたがたの旅はすべてアレンジされています。そこから何を学ぶかは、個人次第なのです」

「それって危険なのかしら」おばあちゃんは繊細な質問をした。

「ときには危険な目にあうかもしれません。でも楽観していてください。愛と幸福を伝えれば、そのことがあなたがたを守るのです。あなたがたが認識できない生命形態と出会うかもしれません。地上の生命のことを何ひとつ知らないエレメンタルと会うかもしれません。恐怖は受け入れがたいものです。恐怖や怒りを、抑えなければ なりません。わたしが言っていることは理解できるでしょう」男はうなずき、ほほえんだ。

「われわれはあなたがたの準備のためにここにいます。試されずに誰もここに来ることはできません。地上から来た人々を危険に陥れるわけにはいきません。しかしながら適合しない人々のほとんどは自身でそのことを理解し、これ以上滞在しない決心をします。ティムはすでにわれわれのひとりですが、エミリー、レックス、エドムンドとともにいることによって、いわば市民権を得ているのです。さて、マスター・サンジェルマンは行きたいところに行くことができます。あなたは彼を必要とすることになるでしょう。
 あなたがここにいるのは、まさにこういった理由からです。あなたの新しい生活がいまスタートするのです!」

 
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