生命の輪と因果律 

 チベットには、われわれがサムサーラにとらわれているメカニズムを描いた、因果律を図像化した「生命の輪(生死流転)」、シペ・コルロ(srid pa’i ’khor lo)と呼ばれるよく知られた図案がある。輪は存在の乱れた本質とサムサーラの悪循環を示している。カルマは輪から飛ばされないようにわれわれを守る遠心力のような働きをする。野望や欲望を満たそうともがけばもがくほど、存在の輪のなかでわれわれは空回りしてしまう。

 輪全体は恐るべき怪物であるヤマ――あるいは死、すなわち無知と二元主義の必然の代償――のかぎ爪につかまれている。輪の中央には三つの動物がいて、それぞれが他の動物の尾をくわえている。これら雄鶏、蛇、豚は貪欲、怒り、無知を表し、われわれのふるまいの根源にある三つの「毒」と呼ばれる。

 中央の軸から外側に向かって二番目の輪を見ると、人間たちがいる。その一部は存在のより高い状態に昇ろうとし、残りの一部は低次の世界に落下している。これは肯定的か否定的かによって、カルマの力が交互に好ましい状態、あるいは好ましくない状態になることを象徴している。

 つぎの輪はサムサーラの存在、すなわち存在の異なるカルマの見方の六つの領域を示している。激しい感情の力がたいへん強く、それによって世界のとらえ方を完全に決定づける。上位三つの領域は人間、神々、半神の世界を表す。一方、低位三つの領域は動物、餓鬼、熱い、または冷たい地獄の世界を表す。もっとも外側の輪は12の区域に分かれる。それらは12の原因、ニダーナ、すなわち因果関係の鎖の要素を描く。それは動力となって、存在とわれわれが出会うすべての状況を決定づける。

 輪の外側にいるのはブッダ、覚醒した者である。ブッダは経典か、あるいはダルマ(仏法)や説法する教えを象徴する八輻(や)の輪を指している。それによって存在を縛る鎖と限界を破るのだ。