『奥様は魔女』の原題<Bewitched> 

 <Bewitched>には、[この語のなかにwitch(魔女)が含まれる] 「魔法をかけられて」と「魅了されて」のダブルの意味がある。それをタイトルにしても日本人にはピンとこないことを考えると、この邦題は悪くはないだろう。冴えているとも言えないが。日本のテレビ局は『へんしん!サマンサ』というタイトルにしたことがあったらしいが、これは最悪。定着しなくてよかった。

 なおドラマ中、「魔法をかける」場合の魔法はマジックではなく、ウイッチクラフトと言っている。おそらくマジックというと、手品のイメージがあるからだろう。最近では手品の<magic>と区別するために、あえて<magick>という綴りを用いることが多い。しかしやはりウイッチ(魔女)のクラフト(わざ)はサマンサの魔法、魔術にぴったりの言葉だ。

 このコメディ・ドラマがあまりにもヒットしてしまったために、それ以前の「魔女」のイメージがどんなものであったかわからなくなってしまった。サマンサのようにいろんなスーパーパワーを持っていたら、そりゃ楽しくてしかたないだろうと思う。しかし実際に魔女とされた人々はそんな能力をもっていなかったし、むしろほとんどが濡れぎぬで、無実の罪で魔女裁判にかけられ、生きたまま火刑に処せられたのである。魔女狩りはキリスト教の歴史の暗部である。魔女といえば無実ながら魔女という烙印を押されたひとびとであり、コミカルに描くことなどありえなかった。この価値観に転機を与えたのが『奥様は魔女』だった。