魔女は鼻をピクピクさせて魔法をかける? 

 この魔女を主役とするドラマで目につくのは、魔女サマンサが鼻をピクピクさせて魔法をかけることである。歴史上の、あるいは文学上の魔女はこんなことをしただろうか。もちろんそんな魔女はいなかった。じつは主役を演じるエリザベス・モンゴメリーの発案だった。

 これはわたしの憶測だけれど、鼻ピクピク(nose twitch)のtwitchにwitchが含まれていることから思いついたのではなかろうか。ピクピクするという言葉には、twitchのほかにwiggleがあるが、こちらはあまり使われない。

 動かすのはあくまで鼻ということになっている。夫のダーリンが妻サマンサに「うちで魔法を使ってはダメだよ」と言うとき、「魔法の鼻(magical nose)を使ってはダメ」と言っている。ダーリンが魔法を使うようサマンサに頼むときは、手で自分の鼻をつまんで動かし「あれやってよ」と言う。

 人間は口を動かすことはできるが、鼻を自在に動かすことはできない。魔女だからこそ<nose-twitching>できるのである。もちろん実際は、上唇の左右辺を動かしているのであって、厳密には鼻を動かしているわけではない。口と頬が動くことで、鼻がピクつき、効果音(リングトーン)との組み合わせで、条件反射的に魔法をかけているようにわれわれは感じるのである。なお娘のタビサ(タバサ)は幼なかったので、指で鼻をつまんで動かしている。 

 今気づいたのだが、シーズン4エピソード25のタイトルは<To twitch or not twitch>(やるか! ドウスル?)である。原題はもちろんハムレットの「生きるべきか、死ぬべきか」(To be or not to be)を引っかけたもの。邦題はあまりにひどいが、六十年前の日本の文化レベルはこんなものだったのか。

 夜、激しい雨の中を車が走っている。運転しているのはダーリン。助手席にはサマンサ。話題は魔法(ウイッチクラフト)を使うべきか使わぬべきか。ダーリンは言う、世間の普通の夫婦は魔法を使わないで生活している、だからよほどのことがないかぎり使うべきではない、と。そのとき突然パンクする。タイヤ交換しなければならないが、外はどしゃぶり。ダーリンは前言を翻してサマンサに魔法を使う(twitchする)よう頼むが、彼女はへそを曲げていて使おうとしない。招待されたパーティ会場(スポンサーの邸宅?)に到着したとき、ダーリンはびしょぬれだった。