配役の変更
不幸なことに、シーズン途中で二名が亡くなっている。ひとりはお隣さんのグラディス。強烈なインパクトを与える風貌だが、じつは末期がんをわずらっていて、シーズン2の途中で亡くなった。またシーズン5で露出の多かったクララおばさんも、収録が多忙を極める頃に亡くなった。彼女は高齢でありながら、高齢のミスばっかりする老魔女を演じた。壁を抜けようとして壁にぶつかり、煙突から家に入ろうとして落下し、煤だらけになって現れた。不明瞭なしゃべりかたは絶妙だった。声優もじつにうまく雰囲気を出していた。クララおばさんはドアノブの収集癖があるが、じつは演じるマリオン・ローンが骨董の小道具を収集するのが好きだったという。ドアノブは彼女のコレクションだったかもしれない。
ダーリンが務める広告会社社長のラリー・テイトの奥さんルイーズも、シーズン3から替わっている。うがった見方かもしれないが、初代ルイーズはきれいすぎたのではなかろうか。主役を食いかねなかった。
重大な配役変更は、なんといってもダーリン役の変更である。シーズン5の途中でおそらく十回以上ダーリンは不在となる。出張していることになっているが、突然役者(ディック・ヨーク)が降板し、オーディションを行っていたのではなかろうか。新しいダーリン(ディック・サージェント)は、じつは最初にオファーがあったが、別のドラマが決まっていたため断念したとされる。ディック・ヨークは別の映画「コルドラへの道」の撮影中に大ケガをし、鎮痛剤を服用しながらなんとか演技をつづけたという。しかしこのため鎮痛剤の依存症になってしまった。
シリーズ5エピソード27「猛烈パパ登場」(Daddy Does His Thing)の撮影中、光の点滅に反応したディック・ヨークは発作を起こし、病院に運ばれた。これが直接的な降板につながったようだ。ケガが原因というより、光過敏症で誘発されたてんかん発作のように思える。なおエピソード27はシーズンの終盤だが、収録はもっと前だろう。(出張中が長すぎないようにディック出演分をばらけて放映した)
配役変更ではないが、サマンサの母エンドラはシーズン7の半ばから急に老け込んだように見える。エピソード14の「おしゅうとめさんNo.1(The
Mother-in-Law of the Year)」では、エンドラ役のアグネス・ムーアヘッド(1900-1974)の首に肝斑が多数確認できるようになる。癌は全身に広がっていった。「奥さまは魔女」が1972年に終了したあと、翌年から彼女はブロードウェイミュージカル「ジジ」に出演していたが、体調を崩し、1974年に亡くなっている。
ほとんどの人は彼女を「サマンサの母エンドラ」でしか知らないが、若い頃から――想像できるようにやや派手な美貌の持ち主だった――舞台やラジオ、映画、テレビドラマなどで活躍してきた。最初はオーソン・ウェルズ主宰のマーキュリー・シアターの中心人物のひとりであり、映画『市民ケーン』では主人公ケーンの母親を演じている。その後MGMの女優として多数の映画に出演している。『奥さまは魔女』の頃にはすでにハリウッドやブロードウェイの大御所になっていたのである。