ネパールで福音を説く
サドゥー・スンダル・シンはいつも怒り狂った群衆に追いかけられている。
群衆に追いかけられ、村から追い出されたスンダルは岩棚の道をなんとか進んでいると、足を滑らせ、岩にはまっていた丸石を落としてしまった。転がり落ちた丸石は、巨大な黒いコブラの真上に落ち、コブラをつぶして殺した。その光景を近くで少年が見ていた。
少年はスンダルに駆け寄って説明した。
「このコブラは村人を襲い、何人も人を殺しました。人々は怖がってこの岩棚に近づかなくなったんです」
少年は村のほうへ走っていき、みなに見たことを教えた。村人らは感謝し、スンダルを家に招いた。スンダルに石を投げて追い払っていた村人たちだったが、今度はスンダルの語る話に耳を傾けた。
1914年5月、ネパール国境付近で福音を説いてまわっていたスンダルは、自分がネパールで宣教するのは神から与えられた使命だと感じるようになった。チベットで宣教する以上にネパールで宣教するのがむつかしいことは聞き知っていた。
山越えは想像を絶するむつかしさで、寒さのあまり手足が三倍に膨れ上がったという。それでもどうにかイラムという町にたどりついた。この町はとても大きく、ネパール国軍の基地が置かれていた。町に入るとスンダルはさっそく市場に立ち、説教をはじめた。あっという間に聴衆は数百人にものぼった。ところが6人の兵士を連れた将校がやってきて、「だれの許可を得て奇妙な神のことを説いているのだ?」とつっかかってきた。
「私はだれの命令にも従いません。将校中の将校、王中の王、すべてのものを創り給うた創造主以外は」
このことばは将校をひどく怒らせた。
「おまえは独房に入れられるだろう。おまえの神とやらが救いに来てくれるといいのだがな!」
「私は独房に入れられることを恐れません。恐れるくらいなら、ここには来ていないでしょうから」
癪に障った将校は兵士に命じて独房に閉じ込めようとした。しかし兵士はこう言った。
「それはおやめになってください。キリストを説く者を檻に入れたら、その檻が汚されてしまいますから」
こうしてスンダルは追放処分ですんだのだった。
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