東方の三賢人に学んだイエス
クリストファー・ムーア『子羊』
(1)ビフによる福音書
クリストファー・ムーアは、現代アメリカを代表する人気ユーモア作家である。これまで(2019年3月現在)16冊の長編小説が出版されているが、邦訳されたのは『悪魔を飼っていた男』と『アルアル島の大事件』だけである。抱腹絶倒度と社会的危険度(つまり、ここまでやると、やばいんじゃないかという度合い)では群を抜いているベストセラー小説『子羊』(2003)が翻訳されていないのはなぜだろうか。原因のひとつは、日本人に聖書の内容があまりなじみがないことがあげられるだろう。クリスマスやバレンタインデー、最近ではハロウィンがさかんだが、聖書を読む人はほとんどいないのが実情である。ふたつ目は、コメディやユーモアの翻訳がむつかしいこと。しかしこれまでの翻訳はかなり上出来だと思うので、この作品も翻訳不可能ということはないはずだ。
この小説のテーマは「失われた17年」を含むイエスの生涯である。語り手はビフというあだ名のイエスとおなじガリラヤのナザレの出身で、同年輩の少年。本名はレヴィだが、毎日母親から頭をポカッ(ビフ)と殴られていたので、ビフと呼ばれるようになったという。聖書にならってこの物語は「ビフによる福音書」と名付けられている。
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