霊能者シルヴィア・ブラウンの『イエスの神秘的生活』 
                                                    宮本神酒男 

有名サイキックはストーリーテラー 

 近年アメリカの女性サイキック(霊能者)のなかで、TVや著書を通じてもっともよく知られていたのは、間違いなくシルビア・ブラウン(1936ー2013)だろう。著名サイキックには当然、毀誉褒貶がつきまとう。さまざまなスケプティック(懐疑論者)のサイトに言わせれば、シルビア・ブラウンはお金儲けに執心するペテン師で、予言はといえば、はずれてばかりということになってしまう。

 シルヴィア・ブラウンは未解決事件の解決や行方不明者の捜索を依頼されることが多かったが、はずれることも多かった。2006年1月に米ウェストバージニア州のセーゴ炭坑で爆発事故が起きた際、「12、3人の生存が確認された」という第一報の誤報を信じたのか、「全員無事に救出される」と透視してしまい、信用を落としてしまった。もっとも、この時点では炭鉱夫たちは坑内で生存していた可能性もあるが。

 1999年の米国のテレビ番組では、6歳の少女が行方不明になった件で依頼され、シルビア・ブラウンは「彼女は誘拐され、奴隷として日本に売りとばされた」という透視をおこなった。そのときに挙げた日本の町の名前は存在しなかったとされる。しかしその名「Kukouro」あるいは「Kukoura」は、あきらかに、最近暴力団の活動が活発化し、問題となっている町、小倉である。小倉にはかつて炭坑があり、戦時中、多くの朝鮮人労働者が強制的に働かされたことでも知られる。この少女を誘拐し、即座に殺害した犯人はおなじ年に検挙され、少女が日本に売り飛ばされたという話はまったくありえなかったことが判明する。透視ではなく、下調べをしたか、何かの情報をもとにストーリーを作りあげていたのだとしたら、その情報源を知りたいものである。

 疑い深い人々によれば、彼女はコールド・リーディングの名手だという。コールド・リーディングとは、霊能者や占い師がよく使うテクニックで、相手の表情や会話をもとに考えていることを読み取る方法である。TVドラマ「メンタリスト」の主人公パトリック・ジェーン(元インチキ霊能者で現在は犯罪コンサルタント)がよく使うので、視聴者にはおなじみだ。事前に十分調査を行い、データを収集するホット・リーディングもまた彼女の得意技だとされる。

 しかし、真偽論争はかならず水掛け論に陥ってしまう。霊能力は100%発揮されるものではないからだ。たとえば2011年3月11日の大震災を当てた霊能者や予言者がいただろうか。一部の地震予知研究所は大震災の前兆をとらえていたというが、しかしそれは科学的な方法によって寸前にデータから導き出された予知であり、霊能力や予言ではない。これだけの大災害を当てることができないのは、この種の能力が曖昧で、弱く、対象もまた限られているからだ。もしコールド・リーディングやホット・リーディングを霊能者が使っているとしたら、それはペテンやインチキというよりも、曖昧さを補うための補助具と考えるべきだろう。もっとも、インチキ霊能者が多いのもたしかであり、シルビア・ブラウンもそうではないと言い切れないのだが。

 彼女が霊能力を発揮するときにかならず助けてくれるのが、守護霊(スピリット・ガイド)のフランシーンだ。懐疑論者からすればこのフランシーンは多重人格者シルビア・ブラウンのもうひとつの人格か、あるいは守護霊と見せかけたインチキということになるだろう。

 虚心坦懐に言うなら、霊能者としてのシルビア・ブラウンを完全に信用することはできないものの、彼女が書いたもの、彼女が話したことは人を夢中にさせるだけの魅力に富んでいる。著作がノンフィクションではなかったとしても、フィクションとして面白ければ、それはそれで評価されるべきだろう。

 『あなたに奇跡を起こすスピリチュアル・ノート』をはじめ、数十冊も著した多産な作家でもあるシルビア・ブラウンの作品のなかでも、『イエスの神秘的生活』はひときわ異彩を放つ傑作である。イエスの知られざる一面を、守護霊フランシーンが解き明かしてくれるのだ。じつはその内容は私がここまで書いてきたことと大差がない(つまり彼女はそれらを種本としてきたと考えられる)のだが、それを咀嚼して、巧みに書いている。



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