ダグラス氏、ヘミス僧院のケンポ(住持)に聞く
アグラ大学のアーチボルド・ダグラス氏が、ジョーダン氏(レーの元郵便局長)の通訳を介して、当時のヘミス僧院のケンポに話を聞いているので、ここに訳したい。このやりとりがあったのは1895年6月3日であり、「イッサの生涯」のフランス語版が出版されたばかりのころだった。
Q1 あなたはヘミス僧院の僧院長(ケンポ、住持)ですね。
A1 そうです。
Q2 どれだけのあいだ、あなたはその職にあるのですか。
A2 15年です。
Q3 あなたは、あるいはこの僧院の僧侶のだれかは、ここで足を怪我したヨーロッパ人を見たことがありますか。
A3 いえ、この15年は見ていません。もし大怪我をしたサーヒブ(西洋人)がこの僧院に滞在したなら、レーのワズィル(行政長)に報告する義務があります。そういう機会はありませんでした。
Q4 あなた、あるいは僧侶のだれかは、「イッサの生涯」をサーヒブに見せたことがありますか。そしてそれを写し取り、翻訳する許可を与えたことがありますか。
A4 僧院にそのような文書はありません。私が職にあるあいだ、僧院のなかの経典を写したり、訳したりすることが許されたサーヒブはいません。
Q5 チベットの仏教寺院にイッサの生涯について記した文書が存在すると思われますか。
A5 僧侶になって42年になります。仏教の書籍や経典をよく知っているつもりです。でもイッサという名は聞いたことがありません。そんなものは存在しないと心の底から確信しています。われわれの主要な僧侶たちはチベットのほかの寺院に聞いてみました。しかしイッサの名に言及した書籍や経典はありませんでした。
Q6 ニコライ・ノトヴィッチというロシア人紳士が7、8年前、あなたの僧院を訪ね、あなたと古代エジプトやアッシリア、イスラエルの宗教について論じたと主張しているのですが。
A6 私は古代エジプトやアッシリア、イスラエルの宗教については何も知りません。
Q7 パーリ語で書かれた仏教関連の本についてご存知ですか。
A7 パーリ語で書かれた仏教の書は何一つ知りません。ここにあるすべての経典を知っていますが、それらはサンスクリット語やヒンディー語からチベット語に翻訳されたものです。
Q8 あなたはサーヒブのだれかから、時計や目覚まし、サーモメータ―(温度計)などのプレゼントをもらったことがありますか。
A8 私はどのサーヒブからも、そのようなプレゼントをもらったことがありません。そもそもサーモメータ―が何であるかわかりません。そんなものは持っていないと断言できます。
Q9 あなたはウルドゥー語や英語がしゃべれますか。
A9 ウルドゥー語も英語もしゃべれません。
Q10 イッサという名にたいし仏教徒は少なからぬ尊敬の念を持っていますか。
A10 その名すら知りません。僧侶たちは名を聞いたこともないでしょう。宣教師やヨーロッパ人を通じて聞いたことがあるかもしれませんが。