ケルトのスピリチュアリティ  Celtic Spirituality

編訳:宮本神酒男 

 

(3)小さき者と英雄ファーガス 

 アイルランドのじつに多くの物語が「小さき人々」との出会いについて語っている。彼らは民衆の想像力のなかでは、疑いを持たない人間をからかうこびと(ドワーフ)かエルフ(小妖精)と理解されている。世界中のシャーマン的な物語と同様、アイルランドの民間伝承全体にこのいたずら者の伝統が顔をのぞかせるのである。

ケルトの人々の間には、妖精に対する恐怖心が現在にいたるまで続いている。おそらく古来のケルトシャーマンはキリスト教の伝統に吸収されてしまい、のちに科学の時代になると、シャーマンの召喚に対して世の人々は冷淡になり、価値がないものとみなされるようになった。こうしてケルト人社会では、精神をいかに保護するか、また精霊と遭遇したときどうしたら安全でいられるか、知っている人が減っているのだ。

 アイルランドの伝説におけるヒーローであるファーガスは、知らず知らずのうちに方法を見つけてしまったようだ。ある日海岸でうとうとしていると、おそらくトランス状態で、あるいは深い夢の中で、レプレコン(小さな老人のこびと)の一団が彼を連れ去ろうとした。しかし彼は目を覚まし、彼らのうちの3人を捕まえた。

「命には命を(さしあげましょう)」と彼らは助命を求めた。それは彼が彼らの命を助けたら、望みのものを与えようということである。ファーガスはじっくりと考え、自分が有利であることを認識し、湖の中や滝、海の中(それらはケルトの異界への入り口だ)を自由に行くことのできる能力を授けてくれるよう頼んだ。

 こびとたちは彼に要求通りの能力を授けた。ただし近隣の特定の湖にだけは行くことができないと伝えた。彼らが特別なハーブを彼の耳に入れると、ファーガスは海の中をも行くことができるようになった。異種本では、レプレコンが与えた魔法のマントを羽織るとおなじ能力を発揮したとなっている。それを着たファーガスは海の中や湖の中を飛び、自由に妖精の世界に入ることができた。

 ファーガスのこびとのような精霊との取り決めは、迅速で、率直で、ポイントをついていた。シャーマン的な旅をはじめて学ぶ人は、彼らがまさにそのようなことをしようとしていて、そのとおりになるので驚くのである。用心深さは必要だったが、そのとき以来、非日常的現実への旅は、具体的な活動だった。

現代に生きる人間として、精霊の世界に疑いを持ったまま旅に出て、精霊が人間と協調したがっていること、そして彼らが(限界はあるが)できるだけたやすく関係を持とうとしていることを理解し、受け入れるのは簡単ではない。

シャーマンに際立った特徴のひとつは、最初の恐怖を克服したあと、非日常的現実世界へ意識を持って入って行くことができる能力である。異界において彼、あるいは彼女は混乱した訪問者であってはならない。非日常の地を開拓する熟練した探検家であるべきなのだ。

しかし、まるで精霊たちはわれわれを傲慢さから救おうとするかのように、ときおり障害やタブーを投げかけてくるのだ。それはファーガスの場合のように、われわれの家の裏庭の湖からは異界に入ることができないという意味なのかもしれない。

                                               (トム・カウワン)