ケルトのスピリチュアリティ Celtic Spirituality
編訳:宮本神酒男
(5)永遠を生きるトゥアン・マク・カレル
6世紀頃、モビルのフィニアンと呼ばれるアイルランドの修道士が、近くに住むトゥアン・マク・カレルという年老いた異教徒の戦士を見つけた。彼はトゥアンを修道院に招き、アイルランドの古い物語を語ってくれるよう頼んだ。トゥアンは承諾し、神話時代に最初にアイルランドにやってきた定住者の英雄物語を語った。
それらはひとつの信じがたい真実の話をのぞくと、まったく聞いたことがないというほどのストーリーではなかった。トゥアンは最初から自分はここにいたと言い、いま語っているアイルランドの古代の歴史に自身参加していたと主張した。
実際、彼が語る物語は古代神話と歴史、自伝の複雑な混合物だった。彼が語るには、毎回彼は死に瀕すると屈強で元気な鳥や獣、魚に変身し、それらの視点からアイルランドの歴史を目撃したのである。彼自身の推測では、人間に生まれるまでに320年を生きてきたとのことである。
トゥアンの変身と生まれ変わりはシャーマンの伝統を強く体現している。人間としての彼は「丘から丘へ、崖から崖へ」と野生の中で生きてきた。彼自身の言葉によれば、彼は「毛むくじゃらで、鉤爪を持ち、しわだらけで、灰色で、はだかで、みすぼらしくて、みじめだった」。そして「一晩寝ると、自分自身が雄鹿に変身しているのがわかった」。
彼は「若くて、そのことを心から喜んだ」。雄鹿としてのトゥアンは鹿の王となった。それは動物の王であり、石器時代からシャーマニズムと関係があった。トゥアンは年を取り、死ぬ準備ができると、イノシシや鷹、鮭などに変身した。動物につぎつぎと変身していったが、トゥアンが鮭になったとき、漁師に捕えられ、一連の変身は中断した。鮭は煮られ、料理として地方長官カレルの妻に差し出された。彼女はこの鮭を食べた。すると9か月後、彼女はトゥアン・マク・カレルを産んだ。
こうした変身を起こすために、トゥアンはかならず特定のパワースポットに行く。森の中や洞窟などの人里離れた場所に閉じ込もり、断食して肉体を苦しめるのは、シャーマンの伝統である。これらの通過儀礼によって、シャーマンは動物の守護霊を幻視し、その外見に変身し、非日常的な世界へと魂を飛翔させる。
変身するとき、トゥアンがトランス状態に陥っていたのは疑いない。そして気、水、地の元素からできた生きものとして、アイルランドの歴史の知識に加えて、自然界の知識を獲得したのである。彼は予見者、詩人、語り部、そして民衆の記憶の担い手となった。彼は日常、あるいは非日常の内なる神秘を教えることができるようになった。