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 桃木の神秘的な力を信じる術士たちは、その樹上に発生する濃厚な樹脂に興味を抱いた。彼らは桃胶(桃の樹脂)が輝き透き通っているさまを見て、これを人が服用すればそれに応じた変化が得られるのではないかと考えた。『典術』という書によれば、桃胶を服用して十五日後、夜半に北斗魁星を注視すれば、星の中に神仙を見ることができるという。清末期の葉徳輝によれば『典術』とは『淮南万畢術』にほかならない。これがあっているなら、前漢の術士がすでに桃胶の効用を誇大に言っていたということだ。のちの医術家や道士はさらに摩訶不思議な見方を加えていった。

 葛洪は言った、桑灰汁に浸した桃胶は百病に効くと。長期間服用すると、身体は軽く敏捷になり、光を発し、夜に見ると明月のようだった。大量に服用すれば、「断穀」しても飢えることはなかった。

 医術家は桃胶を服して仙人となる方法についてあきらかにしている。すなわち二十斤の桃胶を絹袋に入れる。これを十斗のクヌギの灰汁の中に入れて煮沸すること三十五回、取り出したあと高くて風通しのいいところに掛けて干す。干したあとふたたび煮る。それを三度繰り返したあと桃胶を取り出し、日光にさらす。それを研磨して細かい粉にする。最後に蜂蜜を入れ、かきまぜて桐の種くらいの大きさの丸薬を作る。毎回空腹のときに酒といっしょに二十丸を服用する。これを続ければ「軽身不老」が得られる。

 この類の成仙法(仙人の成り方)は虚妄にほかならないが、桃胶に治療効果があると信じ、大量の処方を記録した李時珍もまた疑いを抱かずにいられなかった。「いにしえの処方は桃胶を仙薬としたが、のちに人はそれを用いなくなった。成果が現れないのは特別なことだろうか」。


 桃木関連の巫術性のある薬物には「桃蠹(とうと)」も含まれる。桃蠹は桃樹に棲みつく虫を指す。唐人の陳蔵器は言う、「桑蠹は気を追い出し、桃蠹は鬼を辟ける。どれもそれぞれ効能を持っている」。桃木は鬼を辟けるので、桃樹の上に棲む虫もまたその霊性が伝わっているのである。古代の医術家は桃蠹が「鬼を殺し、邪悪なもの、不吉なものを除く」効用を持つだけでなく、桃蠹糞にもまた不思議な治療効果があることを信じていた。

 『傷寒類要』によれば、桃蠹糞を砕いて粉末にし、水に溶いて「方寸匕」(小さじ一杯)服用すれば、疫病を辟けることができ、疫病の患者から病気を移されずにすむという。桃木から桃蠹へ、桃蠹から桃蠹糞へと施術者の連想はレベルアップし、新しい巫術の霊物、巫術の手法が生まれることになった。