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 古代の巫医は桃木辟邪術をおこなうとき、「東引」「東向」「東行」を強調する。すなわち東に向かって伸びた桃枝や桃根を用いなければならない。

 馬王堆医書『五十二病方』に言う、東引桃枝を門戸の上に挿す。子供を驚かす鬼(しき)をこれで駆除する。人が東引桃木を重視するようになってから久しいという。

 『本草綱目』巻二十九「桃」の項には古代医方を引用し、東引桃枝と桃根を明確に要求している。たとえば東引桃枝を入れて沸かしてそれで沐浴すると、疫病を予防することができる。

清明節の早朝、鶏や犬、婦女と会わないようにし、ひそかに箸やかんざしのように見える東引桃根を細かく刻んで煮て桃湯を作る。黄疸の病人に空腹時に飲ませると、百日後、病はかなりよくなっている。

 戊子の日、十四本の東引桃枝を枕の下に置く。心虚健忘[心虚とは、陽、陰、血の不足から起きる病気。動悸や心臓の痛みなど。健忘は健忘症]がよくなっている。

 東引桃枝を切って砕き、それを一升の酒に入れてよく煮る。半升にまで煮詰まった頃、病人に服用させる。突発性の心臓の痛みにはこれがすみやかに効く。こうした明確な使用目的がある場合に東引桃木の医処方が使われるほか、明解でない目的のために使われることがある。隠れた目的のために使われることがある。李時珍はすでに桃茎と桃白皮の使用法を指摘していた。

「(桃の)樹皮、根皮、どちらも用いることができる。根皮はさらによい。東に伸びるものは、外側を除き、白皮を薬に入れる」。「東に伸びるもの」とは、疾病を治療する際に、薬に入れる桃の白皮はかならず東に伸びる桃枝や桃根から取らないといけないということである。

 巫医が東引桃木の使用を強調するのは、神荼、郁塁が東方の大桃樹の下で悪鬼を補足したという神話に依拠している。神話によると、東方、あるいは東南は桃樹の神が統制している地域で、それは悪鬼が判決を受け、制裁を科されている地域でもあった。桃木はもとから鬼を制圧する力を持っているが、東方と関連するなら、二重の力を備え、さらにパワーアップすると考えられる。このように古代医家が東引桃枝と東引桃根を偏愛するのは、巫術的な意識に基づいている。


 小説家[志怪小説などの作者]は、東引桃枝をなぜ使用するのか、詳しく説明しようとする。『甄異(しんい)記』は記す、夏侯文規は死後よく姿を現して家に戻った。あるとき庭の桃樹のそばで感慨深そうに言った。「この桃樹は私が自ら植えたものだ。今、こんなに大きな桃が成るようになったのか!」。

 文規の妻は夫の鬼魂に向かって言った。「死人は桃木を恐れるとみな申します。なぜあなたは恐がらないのですか」

 鬼魂は答えた。「鬼がもっとも恐がるのは東南に向かって伸びた、日光を浴びる、長さが二尺八寸を超えた桃枝だ。ほかの桃枝をなぜ恐がるだろうか」

 小説家は東南に伸びた桃枝の威力を強調する。その他の桃枝の制鬼能力をきっぱりと否定している。