第2章 15 汚物魔除け(上) 五牲の汚物と古代医術 

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 生贄の家畜の排泄物と人間の排泄物、とくに女性の体と関係のある汚穢(おわい)物。これらは古代中国においては、悪鬼を除き邪を避けるパワーを持った霊異なるものとみなされた。

 汚物駆邪呪術は、基本的に鬼神が不潔を嫌悪し、恐がるという観念から生まれたものだ。この種の観念が鬼神に対する自身の好悪の感情から生まれたものであろうことは簡単に推理できる。五行生克、万物相生相克の観念が流行してからは、人は汚わい物が自然に鬼怪を制圧する力を有していると認めるようになった。汚物が鬼を制圧するのは、猫がネズミを、ムカデが蛇を退治するのとおなじである。日頃からよく訓練を受けている呪術師は汚物をも一種の邪物と見る。それと妖鬼など邪悪なものとの間にはある種の固定的な制約関係がある。彼らは古代医術の「毒を持って毒を制す」の理論を参考にして、「邪をもって邪を制す」を作り出す。

 古代中国の汚物駆邪呪術には三種類ある。すなわち犠牲の家畜の糞便を用いる駆邪。人の糞尿を用いる駆邪。人のその他の汚物および関連した器物を用いた駆邪。とくに女性に関連した汚物を用いた駆邪。

*五牲は牛、羊、犬、豚、鶏 



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