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 古代医家は糞汁、糞清を「黄竜湯」「還元水」「人中黄」と呼んだ。またいろんな製造法を考え出し、霊液を抽出した。黄竜湯は高熱や発狂、猝死(突然死)などを治すのに用いられる。巫術と親戚関係にあると考えられている。

 葛洪は言う、六七日発熱がつづいてもだえ苦しみ、「狂言(たわごとを言い)見鬼(幽霊を見る)」ならば、「糞汁数合から一升を飲ませる。世の人はこれを黄竜湯と呼ぶ。年数を経たものがもっともよい」。

 葛氏はこの処方に関してさらに細かく加工している。「発狂者のように、鬼神を見たかのごとく走り回り、汗をだらだら流し、まわりのことが認識できない。そんな場合、人中黄を甕の中に入れ、泥で固め、半日(だん 長時間焼く)して、火毒を除き、細かく砕き、新しく汲んだ水三銭(15克)とともに服用する。効かなければさらに服用する」。

 またある人によれば、猝死を治すには、死者の鼻に糞汁を注ぎ込む。瘡で死んだ者を治すには、「大黄竜湯を一升取り、これを温める」。棍棒で死者の口を開け、それを注げば生き返る。


 晋人の間では、糞汁が矢毒を解くということが広まったが、のちにすべての毒に効く良薬ということになった。たとえば蛇に噛まれたら、「人屎を厚く塗り、帛で覆えばたちまち癒える」。

 蟲毒百毒を治し、「人屎七枚を焼いて灰にし、水といっしょに服用する。覆って温めて汗を流せばたちまち癒える」。

この処方をとくに提供する者は強調する。「この処方を軽んずるなかれ。神の験があるなり」。

 狂犬に咬まれたときも「人屎をこれに塗る。おおいによし」。

こういった医方は、糞濊駆邪巫術が医学の領域に浸透した結果生まれたものと言えるだろう。


指摘しなければならないのは、糞汁解毒は特殊な状況下では道理がないこともない。葛洪が『肘後方』で言うように、野生の葛芋を誤食したり、毒キノコを食べて中毒になったりした場合、「糞汁を一升飲めばたちまち生き返る」。この糞汁は吐瀉薬だろう。しかしここでは巫医は何か特別なものを用意するわけではない。糞汁解毒法の巫術的性質を変えるほどのまぐれあたりの医方はないのである。[医方とは、医者と方士、あるいは医術と方術のこと]