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古代の医家がもっとも常用していた女性の汚穢物は経血がしみ込んだ布巾だ。彼らはそれを「月経衣」「月衣」「月事布」などと呼ぶ。月衣を薬にするとき、血が付いているものがもっともよいとされる。それゆえこの種の療法と直接月水を使用するのとでは、ほとんど区別されない。
漢代『五十二病方』には、月衣と関連する医方が大量に記されている。たとえば女子が最初に使用した月衣を焼いて灰にする。そして沐浴し、男子の癲癇を治す。
月衣を浸した水煮肉を病人に食べさせ、スープを飲ませる。こうして男子の疝気(ヘルニア)陰腫(陰部の腫れ)を治療する。
月衣に火をつけたあと、それを器に放り込む。その煙で痔瘡をいぶす。
月衣を浸した水で火傷の患部を濡らして治療する。
処女の月衣を焼いてその灰を水とともに服用する。こうして蟲毒を治療する。このように例を挙げたらきりがない。
後代の医書は言う、(コレラを含む)ひどい胃腸疾患にかかり、医療が効かず、病人が苦しんでいるとき、「童女の月経の血のついた衣を(燃やして)粉末にして、酒といっしょに服用すれば、たちどころによくなる」。
虎に咬まれたとき、「婦人の月水で汚れた衣を燃やし、粉末にして傷に塗るとよい」。
腸チフスにかかったあと、「豌豆瘡」ができたとき、「婦人の月衣の帛(ぬのぐれ)で患部を拭うといい」。
身体に紅色の毒瘡がたくさんできたとき、「婦人の月布でこれを拭い、またその汁で子供を沐浴した」。
房事のあとしきりに隠卵の腫れが大きくなったり、卵が収縮して腹に入ったりする。「婦人の血の付いた経月布をとり、湯で洗い、その汁を服用する」。
生理期間中の房事によって男子の陽物が潰爛することがある。そういうときは処女の月衣を燃やして灰にし、麻油と混ぜて患部に塗る。
李時珍は紅鉛邪術を激しく排斥したことがある。紅鉛関連の医方を『本草綱目』に納めることはなかった。ただし上述の月事布医方に関しては逆に深く信じていたようである。一つ一つ煩瑣を厭わず、『本草綱目』に入れている。
月事布は女性の行為や感情をコントロールするために術士に用いられてきた。これは典型的な巫術である。それについては第4章で詳しく説明しよう。