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李時珍『本草綱目』巻三十八には「汗衫」という項目があり、「卒中は性悪な鬼気(奇怪な邪気)によるもの、卒倒や逆冷(手足の冷え)、口や鼻の出血、胸・脇・腹の絞るような痛みは鬼の攻撃のようである。按摩(マッサージ)もできず、吐血し、鼻血が出る。汗と垢がしみついた衫(肌着)を燃やして灰にし、百沸湯(長く沸騰させた湯)、あるいは酒とともに二銭(10克)ほど服用する。男は女の褌を用い、女は男の褌を用いる。内衣でもいいだろう」。この種の療法はあきらかに褌裆治病から派生したものである。
『千金方』巻二十五「火瘡」はきわめて怪異なる説を唱えている。燙傷焼傷(熱湯のやけどと火のやけど)を負ったとき、すぐに「女人の精汁でこれに塗る」と、たちまちよくなる。この方法は前述の『五十二病方』に記された「男子悪」を傷口に塗る療法がもとになっているかもしれない。そこでは男子の精液を塗ったが、それが女精(女子の精汁)にかわったのである。術士がこの方法を考え出したが、実践に移したとは思えない。おおげさに言うことが主要目的であったろうから。
古代の医書にはつぎのような医方がよく書かれていた。蛇に咬まれた傷。「婦人にその傷の上に尿をさせる」。また「婦人に三度またがらせる。あるいは座らせる」。
男子の陰卵入腹[陰卵=睾丸 入腹はおなかに入ること]を治すには、「婦人の陰上の毛二七(十四)本を燃やして灰にし、井戸の華水(毎日最初に汲んだ水)といっしょに服用する」。
「陰易病の者は婦人の陰毛十四本を燃やしてこれを服用する。陽易病の者は丈夫の陰毛十四本を燃やして服用する」。[陰易病とは、健康な男子が傷寒病(腸チフス)あるいは温病(熱病)から癒えたばかりの女性と交わったためにかかる病気。陽易病はその逆]
「病気が癒えたあと交わり、卵(睾丸)が腫れる、あるいは縮み、入腹する。絞るように痛む。こういうときは婦人の陰毛を燃やし、その灰を飲む。また陰部を洗った水を飲む」。
もっとも奇異なやりかたは、牛腹で膨脹して苦しいとき、「婦人の陰毛を取って草にくるみ食べると、たちまちよくなる」。この種の法術はおなじようなものが多く、きりがない。ただすべては穢物駆邪の概念が基本にある。このなかで、婦人の陰毛で陰陽易病を治す方法と、婦人の褌裆(ふんどし)で陰陽易病を治す方法は、あきらかに同源である。