第2章 19 灰による除魔 

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 『荘子』逸文に「桃の枝を戸に挿す。その下に灰を連ねると、童子は入るのを畏れず、鬼神はこれを畏れる」と。灰塵を用いて鬼怪を寄せ付けない起源は相当古そうである。灰土駆鬼法は単純で、砂埃で目くらまし攻撃をする方法である。

 秦簡の『日書』「詰篇」には灰土関連の呪術がたくさん記されている。それは洒法、揚法、法に分けられる。「詰に言う、誰かが一人で居室にいるとき、寒風が入ってくることがあるが、これは一種の妖である。砂をまき散らすと、寒風が自ら退散するという。

部屋のなかでわけもなく傷を負うことがある。これは粲迓の鬼の祟りである。「白茅と黄土を取り、それをまき、部屋の周囲をまわり、すなわち去る」。この二つの説はどちらも「自上而下」(上から下へ)の洒法である。ほかの一種も「自下而上」(下から上へ)の揚法だ。

もし部屋が無人で「丘鬼」が陣取っているなら、荒れた丘の土をこねて土偶の人と犬を作り、塀の上にそれら(一人と一匹)を五歩の間隔をあけて置いていく。部屋のまわりをこのように囲み、丘鬼がやってくると灰塵を揚げ(投げつけ)、ちりとりを叩き、声高に叫ぶ。こうすると鬼は近づこうとしない。

「詰」のなかでもっとも多く登場するのは法である。の借字であり、灰土を吹いて鬼怪を駆逐することをいう。小さな子供が死んだあと埋葬しないでおくと、裸鬼に変じ、部屋に入ってくるという。しかし灰でもって「」すれば、すなわち鬼は来ず。

子供が歩き始める前に死ぬと、部屋の中で「不辜鬼」となって祟るという。庚日の日の出時、門上で灰を吹き、神霊を祭り、十日後、捧げたものを回収し、白茅に包んで野外に埋めると、災厄を除くことができた。鬼はつねに幼児に変身し、「ごはんちょうだい!」と叫んだ。これは「哀乳の鬼」である。

もし部屋の外に骸骨があるなら、黄土でもってこれを「」し、怪しげなものは自ら滅す。ある種の虫は人によって体を切断されたあと、自らつながる。その体に灰を「」すれば、すなわち二度と自らつながることはない。

漢墓書『五十二病方』には呪詛について述べるとき、しばしば「」法に触れている。それは「」が噴気を指しているからだ。『詰篇』中の「」もこの「」もこの一種だろう。もしそうなら、灰や黄土を「」する駆逐法が灰土の力を利用したものである一方、呪術師が吐き出した特別な法力のある息を利用したものでもあるのだ。



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