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 漢代以降、厭勝銭の種類はますます多くなり、その巫術的用途はますます広くなった。厭勝銭は一般的な妖邪の駆除に、富貴と平安の保護に、宮殿を鎮めるために、疾病の治療のために用いられた。

 

 あらゆる厭勝銭のなかで、「斬妖伏邪」という銘のあるものや、符籙の呪文の銘があるもの、神像の神名が厭勝銭となっているものは、もっとも典型的である。世に伝わる「斬妖伏邪」銭の正面の四文字は楷書になっていて、裏面の四角い孔の上には「勅令」の二文字の銘が入っている。「勅令」は「急急如律令」に相当する。これは妖鬼に命令に従うよう厳しく命じるという意味である。

 そのほか「駆邪辟悪」銭というのがあり、表は駆邪辟悪の文字が刻まれ、裏面には北斗七星、宝剣、甕、蛇の図像が鋳られている。北斗七星は道士がその力を借り、亀と蛇は道士が喜んで利用する霊物であり、宝剣は道士が常用する「斬邪利器」(邪悪なものを斬る武器)である。これら鋳られた図像と「駆邪辟悪」の四文字の配合は、疑いなく、道教法術の影響である。

 道教の影響が顕著なのは、符呪が書かれた厭勝銭である。たとえば「天罡符呪(てんこうふじゅ)」銭の表にはつぎのような呪語が入っている。

 

天罡天罡、斬邪滅亡、吾有令剣、斬鬼不存。(天罡よ、邪を斬って滅ぼせ。われには剣がある。鬼を斬って存在なからしめる)[天罡は古代の星名。北斗七星の柄のあたりの36個の星][令剣は、勇猛果敢で剛毅な剣といった意味合い]

急急如律令。

上清撮。[上清撮は、道教呪語の一部。駆除邪悪][上清は天界を成す三清の一つ。上の層には玉清が、下には太清がある。また霊宝天尊の尊称として用いられることもある][上清撮の撮は代理という意味][上清派は晋代に形成された道教の一派。茅山に本拠地があるので茅山派ともいう。修練(存思)を重んじる。大成者は陶弘景]

 

 裏面にはつぎの呪語がある。

 

神清神清、捉鬼降妖、此符到処、滅鬼不存。(清らかなる神よ。鬼を捉え、妖魔を降す。この符のあるところ、鬼を滅ぼす)

雷煞撮。(凶神である雷神の代理)

 

 裏面には「捉鬼神符」という銘がある。

 

 このほか「太上呪」銭の表にはつぎのような銘がある。

 

太上呪曰:天園地方、六律九章、符神到処、万鬼滅亡。(太上、すなわち至上の呪に言う。天上の円形の地方[古代人は天を円形のドームのようなものと考えていた]で、六律九章の呪があり、符神の至る所で万の鬼が滅亡する)

急急如律令、奉勅撮。(急いで律令のごとく厳しくあれ。勅、すなわち皇帝の命を代わって奉る)

此符神霊。(これは神霊の符である)

 

 この裏面には、亀と蛇の形の履(くつ)をはく星官と神符、人形(ひとがた)が鋳られている。

 また「斬鬼大将」銭の裏面には、甲冑を身につけ、右手に剣を持った武士の姿が鋳られている。施術者から見ると、金銭は鬼を使うためのもので、符呪や捉鬼神将の形象を鋳るのは、駆邪の力量をさらに高めるためである。

 ほかにも裏面に星、剣、亀、蛇などの図像が入った「大泉五十」「常平五銖」「五行大布」「大観通宝」「秦和重宝」などの古銭があるが、どれも邪祟を駆除するのに用いられる。

 

 富貴や平安を祈ることに重点を置いた厭勝銭の種類はきわめて多い。国家の平安や社会の秩序を願った「天下太平」銭、「物阜民安」銭、「太清豊楽」銭などもある。「太清豊楽」は梁武帝太清年間に鋳造されたものである。このとき、災害や異変がたびたび発生し、民は生きていくすべがなく、梁朝廷は危険な局面に陥っていた。

 「太清豊楽」を鋳造した目的は、収穫が豊富で、民が安楽であることを願ってのことである。そして滅亡の危機に瀕した梁朝を救うことだった。

 人の富貴と長寿を祈って鋳造した厭勝銭には、「長命富貴」「長生保命」「金玉満堂」「嘉官進禄」「福寿延長」「亀鶴斉寿」などの銘が入った。「出入通泰」「合家清吉」「元亨利貞」など厭勝銭は一般的な吉祥や平安を求めたものである。