(8)牛肉の戒
『歳時広記』巻二十三「戒牛肉」の節に言う。「蔵経」に、毎年五月五日、瘟神が世間を巡行すると書かれている。朱砂で書かれているのは、<本家不食牛肉、天行已過、使者須知>(この家は牛肉を食べない。天行(天体の運行)、すなわち伝染病は過ぎたので、瘟病使者はすべからく知るべき)の十四文字。これを門に貼れば、瘟疫を避けることができる。そもそも牛肉を食べない家であれば、瘟神が押し入ってくることはない。
今日、多くの人が<本家不食牛肉>の6字を省略して、<天行已過、使者須知>の8字のみを貼るようになった。しかしこれでは「蔵経」の意味が十分に伝わらない。
もともとこの14文字は禁忌と祈祷の性質があることを示すものだった。のちに民間で最初の6字が削られ、意味が通じなくなり、語気も強くなった。<天行已過、使者須知>は、天神がすでに査察をすませ、この家が牛肉を食べないこと、ゆえに疫病を受けるリストからはずされていることを述べているようである。瘟神使者は規定を守り、瘟疫をむやみにばらまくようなことはしない。