(9)貴人の力
貴人の手によって、あるいはその威名を利用して疫鬼を駆逐する。強烈な権力崇拝意識から生まれた法術である。
『碣石剰談(けつせきじょうだん)』という題の書は言う。明正統年間、書生李裕の岳父(妻の父)一家全員が瘟疫(伝染病)にかかってしまった。ある日、岳父は夢にうなされていると、鬼たちがなにやら語り合っているのが聞こえた。「明日吏部の尚書がここにやってくるそうだ。われらは用心して避難したほうがよさそうだ」。鬼の一人が言った。「みんな、厨房の空き瓶にしばらく隠れようじゃないか」。老人は夢から醒めて不思議なこともあるものだと思った。翌日、娘婿の李裕が様子を見にやってきた。
岳父は瘟疫にかかったため、以前とまったく様子が異なり、ぐったりとしていた。力を振り絞って、李裕に封印紙に「吏部尚書」と書くよう頼んだ。そのあと人に泥を持ってこさせ、厨房の空き瓶に詰めさせた。泥でいっぱいになると、封印紙を貼り、屋外に持って行って棄てた。その後患者(岳父と家族)は回復したという。
景泰甲戌年、李裕は試験に受かって進士となり、成化年間(1465-87)に出世して吏部尚書の地位に就いた。この書によれば、人をひれ伏させる絶対的な政治権力を使って、貴人は疫鬼を駆逐することができる。上述の璽印逐鬼術とも相通じるところがあるようだ。