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漢代以降、集団で行う「悪夢贈与」は少なくなり、駆夢と駆疫の間の関係は次第にわかりづらくなった。悪夢は鬼魅邪祟が引き起こした病気の状態とみなされた。各種の駆夢法はおもに夢見る者の精神を正常に戻すことだった。駆夢において、のちに僧侶と道士は力を入れるようになった。というのも彼ら自身悪夢に悩まされることが多かったからである。自我の保護を強めるために、順調に修練過程を終えるよう修行者は駆夢の符呪を創造する必要があった。
『酉陽雑俎』「怪術」に「主夜神呪」が記されている。呪文はごく簡単なもので「婆珊婆演底(ばさんばえんてい)」の五文字である。呪の効果は甚大で、つねに誦すれば功徳が積まれ、善報を獲得することができたという。眠っても悪夢を見ないし、夜歩いていても恐怖を覚えることはない。
洪邁『夷堅志・補』巻十四「主夜神呪」の章はこの呪の解釈である。洪邁は言う、「段成式『酉陽雑俎』を読むと主夜神呪が載っている。すなわち婆珊婆演底(ばさんばえんてい)と。夜歩くとき、眠るとき、これを持すれば恐怖を感じることも、悪夢を見ることもなかった。しかし理由がわからなかった。
のちに『華厳経』を読んではじめてわかった。洪邁は経典から引用する。「婆珊婆演底(ばさんばえんてい)の五文字は主夜神の名前である[婆傘多婆演底など表記はたくさん。サンスクリット語でVāsanta-va-yanti]。
古書には僧侶が他人のために悪夢を祓除する描写がある。五代王仁裕が選んだ『開元天宝遺事』の「夢虎之妖」の章に言う、汾陽県令周象は忽然として見た夢の中で、幼い虎に接近していた。夢から醒めると、大病を得た。通りすがりの和尚海寧に法術を実施してもらった。すると周象の寝台の下から、虎の吼え声が漏れて聞こえてきた。水噴などの方法で悪夢の残りを追い払った。