(4)符呪による瘧の治療(中)

 呪文を書く呪法がある。『千金方』巻十に呪文が記録されている。


瘧小児、父字石抜、母字石錘、某甲(患者の姓名)患瘧、人窃読之曰

一切天地、山水、城隍、日月、五星皆敬竈君、今有一瘧鬼小児罵竈君作「黒面漢」、若当不信、看文書。急急如律令!


 この呪文はかまどの神である竈君(そうくん)を激怒させ、全力で瘧鬼を駆逐するよう仕向けた。無中生有、すなわち無の中に有を生じることができる術士は、「竈君の呪」を作り出し、瘧鬼に「黒面奴」という罪名を着せた。


 呪文を使って要求する。真書(楷書)で書き、文字の前後に一行の空白を入れる。呪文の短冊を竈の額に置き、瓦石で圧す。ただし文字の上を圧してはならない。また灰土で文字を覆ってはいけない。また人が短冊にもたれかかってはいけない。もっともいいのは、そのために専用の看守を派遣して見張らせるといい。

 もし瘧疾が明日の日の出のときに起きたなら、その日の夜に人を派遣して竈を掃除して清めなければならない。つぎの日、瘧の発作が起きる前、衣や帽子の端を竈の前に置き、呪文を唱え、あるいは別の人に代わりに唱えてもらう。唱えるときはとくに気をつけて、一字一字しっかり見て、毎回一遍だけ唱える。患者は跪拝し、自分の姓名を報じる。三遍唱えたあと、竈の額に呪文の短冊を圧しつける。

 もし瘧の発作が夜間に起きたなら、黄昏時に追加して三遍唱える。


 瘧を駆逐する者はときには呪文を身体の上に書く。『范汪方』の「治鬼瘧方」の記録によると、紅を用いて額に「戴九天」、腕に「抱九地」、足に「履九江」と書く。

背に書く。「南有高山、上有大樹、下有不流之水、中有神虫、三頭九尾、不食五穀、但食瘧鬼、朝食三千、暮食八百。急急如律令!」。

 胸に書く。「上高山望海水、天門亭長捕瘧鬼、得便斬、勿問罪、急急如律令!」


 『如意方』に言う、瘧が発作を起こす日、早くに起きて井華水(早朝一番に汲む水)を汲み、朱砂と混ぜる。額の上に「天獄」、胸の上に「胸獄」、背中に「背獄」、左手の上に「左獄」、右手の上に「右獄」、両足の土踏まずに「地獄」と書く。書き終わると東方に向かい、呪文を三遍唱えると瘧疾は癒えている。

 また術士はこれを用いて小児瘧疾を治す。『産経』に言う、「(小児の)頭、顔、胸、背中に筆で天公と書く。胸には朱書で呪文を書く」。


太山之下有不流水、上有神竜、九頭九尾、不食余物、正食瘧鬼、朝食一千、暮食五百。

一食不足、遣我来索、瘧鬼聞之、亡魂走千里。


 瘧疾患者は全身に紅色の呪文が書かれる。そのさまは怪異で、怖くなるほどだ。それを傍観する者には強烈な視覚的刺激を与えることになる。