(7)緊急の産気づけ巫術(中)

<鬼の名を呼ぶ>

 難産をもたらす悪鬼には二種類あるという。一つは「語忘」、もう一つは「敬遺」と呼ばれる。お産の際にこの二つの名を呼べば、順調に分娩されるという。両者の名を書いた紙を持てば、鬼たちを追い払うことができる。

 またある人は言う、「語忘敬遺の四文字を朱書きした黃紙を産婦の寝台の対面に貼り、人々に四文字を念じさせつづければ、すぐに生まれる」。


<太守の姓名を飲む>

 宋代の民間に流行した法術。「難産のとき、ひそかに浄められた紙に州太守の名を書き、それを灯火で燃やして灰とし、調湯(スープ作り)をしていっしょに服用する。するとすぐ出産する」。太守の権威を利用して分娩を阻害する邪祟を鎮圧する。貴人の権威を借りる治瘧法術と原理はおなじである。


<土を服用する法術>

 『医心方』巻二十三に引用する古医書に言う、竈(かまど)の中の黄土を取り、三つまみほど酒で溶いて服用する。胎児はすぐに生まれるだろう。

 竈の土を胎児の頭に塗れば、お産を助けることになるだろう。

 同様の方法を用いて死産の胎児を下ろすことができる。竈の中の土を産婦のへそに置けば、胞衣が出るのを促進できる。井戸の底の土から桐の種子ほどの大きさの丸薬を作り、服用すれば、同様の効果が得られる。車輪の上に附着した塵土を三つまみほど服用すれば、逆子に効く。竈の中の黄土や井戸の底の土でお産を促進するのは、竈神や井神の力を借りるということである。

 車輪の土を逆子の治療に使うのは、胎児が感応すると考えるからである。すなわち車輪の旋回に感応し、もとの状態に戻ると考えられたのである。


<墨を服用する法術>

 『医心方』巻二十三に引用する『博済安衆方』に言う、竈中の黄土に加え、竈突墨、つまり炉竈の煙道(通気口)の墨と灰は、難産の治療に有効だという。この方はもともと竈神の力を借りて出産を促す法術だったが、後世の人は誤解して墨が難産治療に効くものと勘違いした。同書の巻二十三に引用する『僧深方』に言う、好墨二寸を用いて研磨し、粉末にし、それを服用する。すると死産の胎児を下ろすことができる。この種の法術と竈神はまったく無関係である。

 宋人銭易『南部新書』巻庚に言及する。雷州の西に雷公廟がある。当地の人々は雷公を崇拝していた。毎回雷がやってきたあと、野外で黒石が拾われた。人はそれを雷公墨と呼んだ。この墨の光沢は漆のようで、叩くとキンとした音が帰ってきた。子供は驚邪を避けるためそれを佩帯した。研磨して粉末にしたあと、お産を促す薬とした。雷公墨による難産治療は雷公崇拝と関係があり、服墨催生法術のバリエーションである。


<豆を呑む法術>

 古医書に言う、一粒の大豆の左上に「日」字、右上に「月」字を書き、それを呑めば、難産が治る。医方(疾病の処方)によってはさらに神妙な効果がある。

 牛の糞尿の中から一粒の大豆を取り出し、片面に「父入」と書き入れ、もう片面に「子出」と書き入れ、それを呑む。牛糞や大豆は伝統的な辟邪霊物(魔除け)である。「父入」という言葉を書き入れ、未来の父親の権威を借りて胎児の出産を促す。

 赤小豆もまた常用される催生(促産)霊物である。たとえば「赤小豆を二粒取ってこれを呑む」と、胎児はこの豆を手に持って誕生するという。

 男の子を産むには小豆七粒、女の子を産むには小豆十四粒を呑む。胞衣が出ないときも、これでよくなる。

 『堅瓠余集』巻四に引用する『嚨語(ろうご)』に言う、「ひとりの奇僧が難産の処方を伝えた。杏仁(アプリコットの種)ひとつを用意し、皮を取り、片面に日字を書き、もう片面に月字を書く。煮だした蜜で固めて丸薬とする。沸かした水か酒といっしょにこれを呑むと、効果がある」。この法術はあきらかに大豆を呑む法術のバリエーションである。