第3章 12 その他の疾病の禁治
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古代の祝由術が及ぶ範囲は非常に広く、それぞれの疾病に応じた禁呪方法が存在する。文献に記載されている禁病方法は大量にあるように見えるが、古代の祝由の一部分にすぎない。というのも多くの呪法は方士の間に口頭で伝えられるだけなので、記録されることはないのだ。以下に客忤、邪病、陰㿗(いんたい)、贅疣、瘡腫、破傷その他の伝染病を禁治する方法を列挙する。しかしこれらも文献に記載されるものの一部にすぎない。
<禁客忤>
客忤(かくご)とは、外来の鬼気や邪悪の気によって人が機嫌を悪くしたさまを指す。それによって突然発病することがあり、「卒忤」とも称す。『千金翼方』巻二十九にはいくつかの「禁鬼客忤気」の呪法が載っている。その中の一つはつぎのようものだ。
まず「呪」を通した水を病人に吹きかける。同時に刀によって象徴的に鬼を斬る動作をおこなう。そして敷布の一方の端で病人の頭部を覆い、二人の人に敷布のもう一方の端を引っ張ってもらい、前面を遮らせる。病人は敷布の下で両手を合わせ、ひざまずき、静かに巫師が呪文を唱えるのを聞く。つぎのような呪文だ。
「神師所唾、厳如雪霜、唾殺百鬼、不避豪強。当従十指自出、前出封侯、後出斬頭、急急如律令!」(巫師が唾を吐く。雪霜のように厳しく。唾で百鬼を殺す。強い者も逃げられない。十本の指から自ら出る。前に出た者は侯爵に封じ、後に出た者は斬首する。急いで律令のごとくおこなえ)
七遍呪文を唱えて病状が好転しなければ、さらに継続して呪文を唱える。病人の十の指の先から「毛」が出てくるまでつづける。[お産が進むにつれて十本の指が自然に開くという中医学の伝統的な理論がある]
道教経典には客忤、中悪を治す符籙について多くの事が記されている。たとえば『太上洞玄霊宝素霊真符』巻中には客忤を治す四道霊符のことが書かれている。この書はまた言う、患者がすでにショックを起こしていたとしても、「心臓の下がなお暖かければ」、あわただしく、符を書く時間もなければ、紙上に何か好きなことを書いて、紙を丸め、病人に服用させる。この書の説によれば、符の形がどのようなものであるかは重要ではないという。
子供の客忤を禁治する専門の呪法がある。すでに述べた「唾法」の箇所で引用したが、豆鼓(とうち)を丸めて子供の身体にこすりつける方法がこれに属する。古代の医術家は子供が鬾病になり、夜泣きをするのを客忤の範疇に入れている。鬾はもともと小児鬼のことを言う。伝説によれば女性が懐妊したとき、悪神が糸を引いて、おなかの中の胎児にすでに外の世界に出た子供に嫉妬するよう仕向ける。そのときに病気になれば、すなわちそれが鬾病である。
馬王堆漢墓帛書『五十二病方』に禁治鬾病の記載がある。その中の一つは、禹歩で三周し、東に向く桃枝を半分に折り、門、戸の上に挿す。ほかの方法では呪詛を実施する。子供の夜泣きを治す方術はさらに一般的に見られる。村の大門に泥を塗りこむ。剣を抜いて戸にもたせかける。寝台の脚に鏡をかける。子供のヘソの上に「田」の字を書く[鬼の字の上の部分か]。子供の母親に見つからないように使われていない井戸の草を取って門に掛ける。井戸の入り口 周辺で採った草、あるいは牛矢(牛糞)をひそかに母親の寝床の下に置く。犬の首の下の毛を袋の中に入れる。その袋を子供の両手の上に吊るす。黄昏時に、子供の衣服を部屋の柱の上に吊るす。竈の中の土と四辻の土を混ぜて粉にし、子供に飲ませる、などさまざま。