(8)
<禁歯痛法>
古代には禁牙歯痛法術があり、激痛をもたらす「虫」の治療を専門としていた。
『千金翼方』巻二十九に言う。南に向かい、大きく呼吸して、一尺二寸の桃板に「〇州〇県郷里女〇、年若干、患口中左右若干歯痛」と書く。これを三回唱えたあと、桃板を三叉路に埋め、石ころで蓋をする。その場を去るとき、振り返ってはならない。桃板を埋めるときはつぎの呪文を唱える。
南山有一虫、名赤松子、不食五穀、但食口中虫。(南山に一匹の虫あり。名を赤松子という。五穀を食べず、口の中の虫だけを食べる)
埋汝三路頭、塞汝用石子、埋汝著樹東、千歳万歳不得起。(汝を三叉路に埋め、石で蓋をする。汝を樹の東側に埋め、千年も万年も掘り起こさない)
急急如律令!(急いで律令のごとくおこなえ)
<禁鯁法>
咽頭異物の治療を専門とする禁鯁(きんこう)法術がある。『千金翼方』巻二十九には治鯁(ちこう)呪文が載っている。
南山大虎、北山狐狸、江中大獺(た)、海中鸬鹚(ろじ)共来食、哽(こう)速消除。(南山に虎、北山に狐、川にかわうそ、海に鵜あり。みなやってきて、喉のつっかえを食べ、消えてなくなる)
横者即入、順者即出。(横から入り、順に出ていく)
急急如律令!(急いで律令のごとくおこなえ)
喉に小骨が刺さったとき、清水の入った碗を準備し、指で空中に「天上金鶏叫、地下草鶏啼、両鶏并一鶏。九竜下海、喉嚨化如滄海」(天上の金鶏は鳴く、地下の鶏は鳴く。二羽、あるいは一羽の鶏。九竜は海に降りる。喉は滄海のようだ)と書く。この一節を七度唱え、水を飲むと、喉に刺さった小骨はたちどころに消える。
もう一つの法術はもっと簡単で、「鳥飛竜下、魚化丹丘」(鳥は飛び、竜は降りる。魚は丹丘になる)の八文字を書き、唱えるだけでいい。
<禁目痛法>
目の痛みを治すのを専門とする禁目痛法がある。『千金翼方』巻二十九に呪文が載っている。
日出東方、赤如紫陽、児子目痛、父母心傷。
吾口一唾、明見四方。百薬千治、不如吾湯。
若唾唾汝、汝眼毒消亡。
急急如律令!
呪文以外にも、道士は各病気を治すのに符籙を用いてきた。『太上洞玄霊宝素霊真符』の中からいくつか紹介しよう。(図a)
第一符は、治疼痛。第二符は、治腹痛。第三符は、治心(心臓)痛。第四符は、治腹膨。第五符は、治腰痛。第六符は、治背痛。第七符は、治胸痛。第八符は、治痢疾。第九符は、治霍乱。第十符は、治大便不通。第十一符は、小便不通。第十二符は、可治百病。これらはどれも呑用符の符だ。
これら医方の符は『千金翼方』巻二十九、三十「禁経」上下に集中的に論述されている。比較的明晰に、古代の祝由術の面貌を反映しているといえる。
1925年、魯迅は歯痛の治療を例に出して、中国人の科学に対する無関心ぶりを批判した。「二千年もの間、歯痛に対して適当にお茶を濁してきて、何一つ方策を思いつかなかったのである……」。
列挙した「禁牙歯法」およびその他の祝由術に、魯迅の話から注釈を付けることができるだろう。祝由術が代表するのは、事物の真相を探求することに気力をそそぐのを願わない意識であり、真実をなおざりにする学風である。それは非功利的な研究を扼殺し、中国医学や科学、中国人の精神生活に甚大な損害を与えてきたのである。