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 術士が用いた蛟竜に対する神薬はまだある。柳宗元『竜城録』には、術士賈宣伯が除虫神薬をつくったと書かれている。処方は簡単である。

 黄柏木をよく煮詰めて、煎じ、熱い酒をぶちまける。彼は松江で巨魚を捕える。一刀圭(薬さじ)ほどの神薬を魚網に入れると、すぐに魚は毒があたって死ぬ。奇妙なことに死んだ魚から八本の足が出てきて、それぞれに鷹のごとき爪がついている。のちに呉江は妖怪が出没したが、これは蛟竜の祟りとみなされていた。[古代の松江、あるいは呉江は、現在の呉淞江]

 賈氏が数刀圭の神薬を深みに投入すると、翌日一匹の老いた蛟竜の遺骸が浮かび上がってきた。さらに無数の水虫が薬によって死んだ。賈宣伯の「神薬」はおもに蛟竜や各種精怪を鎮圧するためのものだが、その性質は符呪(符籙と呪文)とほぼ同じである。


 古代の民間は竜と蛇をおなじ類とみなしていたが、竜の神通力は格段に大きかった。巫師は自ら法術によって蛟竜を鎮圧することができると称した。当然禁除毒蛇や毒蛇咬傷治療の法術を有していた。

 『五十二病方』治蛇咬の法術を記している。

a)息を吐き出したあと、大声をあげる。「啊呀、年、現在痛人了」(ああ、なんという痛みであるか!)。痛みが止まらなければ、大声でおなじことばを繰り返す。

b)呼吸をしたあと、呪文を唱える。「伏食(蛇)! 父親住在北方、母親住在南方、生下門兄弟三人、都不是好東西!」(蛇よ! おまえの父は北に住む。おまえの母は南に住む。おまえら兄弟三人を生んだが、どれもよからぬ者ばかりだ)。唱え終わると、好転する前に、傷口に薬物を塗る。[伏食は丹薬を服用するという意味だが、ここでは蛇を指す]

c)杯に汲んだ土漿を瓢(ひさご)に注ぐ。左手に瓢を持ち、北方に向かい、患者のまわりを禹歩で三周する。患者に姓と名を聞く。患者が答えると、土漿を杯の半分飲ませる。術士は言う。[この土漿は黄土のこと。解毒作用のある薬材]

「よいことである。毒はようやく消え行き、病はゆっくりとよくなるだろう」言い終わると、瓢を置き、一同は去っていく。