(8)
禁治やその他の毒虫に対して使用する呪法を以下に掲げる。
『五十二病方』には治蠍螫(サソリに刺されたときの治療)の呪文が記されている。その一つは「風貫而(爾)心」(風は汝の心臓を貫く)に言及している。これと上述の禁蛇呪文の「鳳凰嘴如絲」(鳳凰の嘴は糸のごとし)は「互いに証明している」のである。古代の人から見ると、鳳凰のくちばしは尖って、長く、鋭利だった。もっぱら蛇やサソリ、つまり毒虫をついばむからである。
後世、流伝する禁蠍(サソリを禁ずる)呪文はきわめて多く、『千金翼方』巻三十が列挙している。その一つは、サソリに刺され、二日間斎戒し、三日目、沐浴し、手を浄め、北堂の東側で三七(21回)呪文を述べる。
天有八節、地有九枝、一非草木、二非蒿枝。
上他床上、傷他婦児。
速去速去、戴勝来追。
不痛不疼、不腫不膿。
急急如律令!
同書は禁蜂毒の呪文も挙げている。
兄弟三人走出野、大兄名蝮、南山上下、中兄名蛇走田野、小弟名蜂看屋梁。
堅如瓦、熱如火、二七唾、毒当堕。
急急如律令!
後世に伝わった治蜂螫法(ちほうせきほう)があった。「蜂が来た方へ向かい、右手中指で空中に草書体で帝の字を書き、そのまま真下の地面に中指で土を掘り、それ(土)を刺された箇所に塗ると、痛みは止まった。
治蜈蚣(ムカデ)刺し傷法術は以下の通り。右手で刺し傷を押さえ、 一息に呪文を唱える。それを七度繰り返す。
止見土地、神知載霊、太上老君急急如律令!(土地を見るのをやめる。神は霊が載るのを知る。太上老君よ、急いで律令のごとくおこなえ)
別の法術では、指で花枝の下の泥土に田の字を書く。その泥土を患部にすり込む。この法術をおこなうとき、人に知られてはいけない。
『千金翼方』巻三十に禁治帯毒毛虫の呪文が記録されている。
蛆似蜂、著山叢、(蜂に似たウジ、山の草むらにあり)
蚝似蝺、著山腹、(蝺に似たカキ、山腹にあり)
老蚝蚑、縁木枝、兄弟五人吾都知。(蚝蚑、木の枝にあり、兄弟五人、我はみな知る)
攝汝五毒莫令移、汝不攝毒滅汝族。(五毒を吸収して移してはいけない、汝の一族を滅ぼす毒を吸収してはいけない)
急急如律令!(急いで律令のごとくおこなえ)
また禁毛虫呪が禁治狐尿刺人の作用を持つ。一つの呪文が多くの作用を持っているのである。