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 『法苑珠林』巻七十五に、仏教の除蝗(イナゴ除け)陀羅尼(ダラニ)が二つ記されている。

 一つは「呪穀子腫之令無螽(しゅう)蝗災起陀羅尼」。[螽はイナゴ、キリギリス、ハタオリムシを含む虫の総称]呪文は比較的簡単。


多擲咃、婆羅跋題、那蛇婆題 


 穀物を植えるとき、種子を一升取って、この呪文(ダラニ)を二十一回唱える。そのあと「大種子」の種子を植える。「大種子」とは呪文をかけた種子のことである。まだ呪文をかけていない種子を大種子に混ぜて、あらためて種をまく。このようにすれば、種子が虫に食べられることはなく、災いのイナゴも発生しない。


 もうひとつの呪文は「呪田土陀羅尼」。内容はつぎのとおり。


南無仏陀蛇、南無達摩、南無僧伽蛇、南無弥留竭脾菩提薩埵提咃…… 


 もし苗が育っているか心配なら、土を一(こく)取り、これに対して二十一回呪文を唱える。この「呪土」を農作物にまく。これは「諸悪鬼は穀精を吸ってはいけない」と命じたに等しい。命令に反したなら、悪鬼は頭を殴られ、血を流すことになる。この呪文によって一切のイナゴの災いが除かれるだけでなく、農作物に危害を与える邪悪な力が萌芽の段階で消滅する。


 この二つの呪文はともに二十一回唱えることが要求される。あきらかに道教の呪法も剽窃である。道士は北斗七星の迷信から数字の七を特別と信じ、七あるいは七の倍数、呪文を唱えた。『法苑珠林』の二十一回は、術士がいう三七遍とおなじである。