(2)辟虎狼(つづき)

 道教が形成されたあと、各種の巫術は急速に発展し、辟除虎狼法は日増しに見られるようになった。東晋の頃、ある人が葛洪にたずねた。「道士は修練のために山林に入ることがあります。しかし山に入るとたやすく虎狼の害に遭ってしまいます。どうしたら災難に遭わずにすむでしょうか」。

 葛氏は『抱朴子』「登渉」のなかで全面的に回答している。彼が言及した法術はつぎの3つに分類される。


 第一、印を用いる。魏晋の道士が常用した神印は、「黄神越章の印」であり、前の章で紹介した。葛洪はまた辟除百鬼および蛇腹、虎狼の神印、図(別図)のごとき印文に言及している。この印を棗心木に二寸四方に刻み、再び拝し、これを身につけるとはなはだしい神効がある。葛氏が言うには、この種の神印はもともと太上老君が身につけていたもので、のちに仙人陳安世が印文を取ってきたが、印章を用いなかったため、変成して一種の符(おふだ)になったという。葛洪はまた、「中黄華蓋印文」を用いれば辟除虎狼ができると述べるが、いまだに印文の形状については記していない。


 第二、禁呪。突然虎と遭遇したら、「三五禁法」を用いるといい。この法は異常といえるほど複雑で、「細かくすべてを書き記すことはできないので、口伝しかない」ということになる。虎に遭ったら自分が三丈の朱雀になったと想像するといい。そして虎の頭の上に飛び上がる。同時に気を閉じると、虎は離れて去っていく。もし夜、山中に野宿するなら、暗闇の中で釵(かんざし)を取り、気を閉じて「白虎」を刺す。大抵は地上に白虎七宿を描けば恐れを抱くこともなくなる。別の法では、左手に刀を持ち、気を閉じ、地上に四角い枠を描く。そして呪文を唱える。

「恒山之陰、太山之陽、盗賊不起、虎狼不行、城郭不完、閉以金関」。

 呪文を唱え終わると、「旬日中白虎」に刀を横に置く。両側にそれぞれ五つの「日」が書かれ、中間に白虎星座の符をえがく。これで虎狼を畏れることはなくなる。このほかにも「大禁」の法がある。「三百六十口の気を呑み、左を向いて刀を得て、右を向いて虎を叱れば、虎が起きることはない。この法で入山すれば、虎を畏れることはない」」。


 葛洪『肘後方』は別の禁虎法に言及している。ここにつけ足して悪くはないだろう。山中にやってきてまず二十五息の気を閉じる。そして山神が目の前に虎を連れてきたと想像する。また自分の肺の中に「白帝」が出現したと想像する。虎の二つの目を掻き出す。それで自分の下部を塞ぐ。そして呪文を唱える。

「李耳よ! 李耳よ! 汝は李耳ではあるまいか。汝は黄帝の犬を盗んだ。黄帝は汝に問うよう私に教示された。汝は何と答える?」

 このあと山中に行ったとしても猛虎に遭うことはないだろう。

 漢代には「虎本李氏公」という伝説があった。呪文の李耳とは虎の名前である。「汝は黄帝の犬を盗んだ」というのは、罪状をでっちあげて虎を震撼させたのである。