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 招魂返形(魂を呼び、元の姿に戻す)の例を挙げよう。返形の手法には二種類ある。姿かたちがよく似た人に故人に扮してもらい、装置を使って幻影を作り出すという方法だ。

返形術にはいくつかの条件がある。

一般的に、夜間実施する。静かで閉鎖的な環境が望ましい。

傍観者はひとりが望ましい。

帳を設けてロウソクに火をつける。

死者の魂が姿を見せる時間はきわめて短い。

死者の魂は絶対に口を開かない。

傍観者は死者の魂に近づいてはならない。

傍観者が違反したら、その瞬間、火は消される。


こうしたことが求められることから、また実際の現象から、返形術の内情もあきらかになるだろう。さて袁牧の一篇の文章をもう一度見てみよう。

 婁(ろう)県のある道士は「天女をよく招くことができた」。道士に施術を依頼する場合、きらびやかで美しい衣や装飾品を要求された。

 道士が天女を招くのは夜の初更(7―9時)だった。「(儀式を始める前に)まず室(へや)を掃除し、清める。他人に邪魔されない状態を確保する。そうして道士が部屋に入り、呪符を書き、呪文を唱えると、天女が姿を現す。天女はあでやかで、うつくしかった。体からは何ともいえないいい香りが発せられた。人と(性的に)交わっても、世の人と異なるわけではなかった。おしゃべりをしたり、笑ったりすることはなかった。明け方になると、また道士が来た。人を入れないようして、符を書き、天女を天上へ送った」。

 天女はこの世界を去るとき、衣や飾りをことごとく持ち去らねばならなかった。道士はこのことを、人が納得できるよう説明した。天女と寝た人には、悪いことが起きなかった[彼女と愛を交わせば禍が起きないという評判が立った]。金持ち連中は、ぞくぞくと道士のもとにやってきて、法術をおこなうよう頼むのだった。その結果、みな湯水のごとくお金を注ぎ込み、家産を傾けることになってしまった。

 こうして人々はようやく、天女が通常の妓女と変わらず、道士とグルになっていたことに気づくのである。道士は体が丈夫で背が高かった。法術をおこなうごとに「女は懐のところに隠れていて、大きな道袍[道士のマント状の上着]に包まれていた。暗いところでは見分けることができず、人も閉め出されるので、それらしい衣や飾りを着けただけの妓女であることがわからなかった」。そして天女が降臨したと宣言する。

 夜明け前に天女を天へ返すと偽り、人ごみを避け、妓女を道袍に包んで抜け出す。法術を終えたあと、道士も妓女も衣や飾りを隠し持つ。以上は秘密だったが、道士がこの世を去ったあと、弟子が暴露したことから知られることとなった。

 この例からもわかるように、少翁が李夫人を招いたのも、宋巫が殷淑儀を招いたのも、任処士が亡妾を招いたのも、説明が付く。