第4章 07 蠱術(上) 毒蠱の性質と種類
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蠱(こ)術とは、鬼魅の性質を利用して他人を攻撃する巫術(呪術)のことである。この種の巫術は、古代の江南、とくに少数民族地区で流行した。
『左伝』「昭公元年」は言う、「文字において、皿の虫と書いて蠱となす。稲穀のなかの飛虫もまた蠱とする」と。蠱の字は皿と虫を組み合わせたもので、皿に生まれた虫や虫・木食い虫に壊された皿のことを指す。さて、一歩一歩進んでいこう。穀物が腐敗するとそこに蛾などの飛虫が生まれる。ほかの物体を通じて変質し、形成される虫もまた蠱と呼ばれる。蠱は変幻し、測りがたい性質を持ち、尋常ではない毒性を帯びると認められる。そのため毒蠱とも呼ばれる。
毒蠱が誘発した疾病は蠱疾、あるいは単に蠱と呼ぶ。秦代以前、秦代、漢代の人は蠱疾には二つの特徴があるという。蠱疾患者は鬼魅に惑わされ、神智昏乱に陥った患者とよく似ている。毒蠱はおもに飲食を通して人の体内に入り、体内で発作が起きる。蝎(サソリ)が螫(刺す)、蛇が咬む場合とは異なっている。
春秋の頃、秦国の医和(和という名の医師)が晋平公の病を診断するとき、「疾は蠱のようだ。鬼や食(が原因)ではない。惑わされて意志を失っている」と言った。注釈家によると、医和は晋平公の病は蠱疾とそっくりだが、鬼魅とも飲食とも関係なく、女色に惑わされたためだという。この診断は真逆と理解したい。すなわち蠱疾はかならず鬼魅や飲食と関係がある。のちに蠱という言葉は迷惑の意味で用いられるようになった。あらゆる人に迷惑をかける行為や神志不清(恍惚とした状態)はひとしく蠱と呼ばれた。これは蠱疾から進んだ状態である。