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 ここまで列挙した治蠱霊物(蠱病を治す霊的なもの)は、古代の治蠱霊物のほんの一部に過ぎない。『本草綱目』巻四に並ぶ治蠱薬物は160種以上にのぼり、そのなかには薬物とは言い難い古鏡、雄羊の角、雄羊皮、霊猫陰(ジャコウ猫の陰部)、猫の頭骨、人の歯、ふけなども含まれ、あきらかに巫術の霊物と考えられている。

古代の治蠱医術に関して注意すべき点が二つある。そもそも虫鬼を信じるのは迷信であり、よって医療といっても巫術的な色合いが濃いことになる。たとえば猫鬼を信じる人が作った猫鬼治病方はまちがいなく破解(分析解釈)巫術の巫術だ。

『千金方』巻二十五には猫鬼治病方の例が記録されている。相思子(トウアズキ)、麻子(トウゴマ)、巴豆(ハズ)、朱砂、蠟(ろう)という五味の薬を「合搗作丸」(あわせて、搗いて、丸粒を作る)する。病人にこの丸薬を一粒口に含ませ、病人を囲うように灰土を撒き、彼の前に火の着いた柴を置く。病人は火に薬を吐き、煙が上がると火の上に十字を描く仕草をする。そして「その猫鬼はじめ皆死すべし」と唱える。丸薬にはたしかに殺虫毒薬が含まれるが、その取りまとめかたは巫術そのものである。

孫思(そんしばく)は「蠟月(ろうげつ)に死んだ猫の頭の灰」を用いて猫鬼の病気を治療する方法を説明する。一方で「外出するときは、つねに雄黃、麝香、神丹ならびに諸大辟悪薬、すなわち百蠱、猫鬼、狐狸、老物精、精魅などが永遠に人に取りつかない薬を持つ」ようにする、と述べている。これらはみな解毒の作用がある。

つぎに、蠱術迷信の基礎ともいえるが、多くの人が解毒薬を用いることを神秘化している。唐代の伝説に言う、「新州(広東新興)の郡境に薬がある。地元の人はそれを吉財と呼ぶ[一説にはこの薬草を取りに行った家奴の名だという]。諸毒および蠱を解毒する。神効無比である。毒に当たった者は夜中にひそかに二、三寸ほど取って、くだいたり、すったりして、甘草を加えてこれを煎じて飲む。吐瀉すると、癒えている。

俗に言う、薬を服用することをあまり言いたくなく、そのためこっそりと取る。なぜそうなのかはわからない。またある故事によると、ひとりの老婦人が蠱病になったあと、吉財を服用した。すると夜、夢の中に蠱鬼が現れて言った。(蠱鬼の)声が言うにはこの種の薬を服用するとかならず死者が出るという。多くの人に勇気づけられて吉財湯(スープ)を飲むと、蠱疾はついに癒えた。このように蠱病の薬は薬であるとともに、鬼を倒す武器ともなった。秘密兵器を使用していることは、虫鬼に知らせてはならなかった。それゆえ吉財を取るのはひそかに行われるのであって、けっして明言してはならなかった。