(6) 

<呪文> 

『千金翼方』巻三十「禁毒蠱」の節には多くの種類の呪文が並んでいる。「呪蠱毒文」には「毒父竜盤推、毒母竜盤脂、毒孫無度、毒子竜盤牙。若是蛆(うじ)蛛(くも)蜣螂(クソムシ)、環汝本郷。虾蟆(かえる)蛇蜴(トカゲ)、環汝槽栃(飼い葉桶)。今日甲乙、蠱毒須出。今日甲寅、蠱毒不神(神ならず)。今日丙丁、蠱毒不行(よからず)。今日丙午、環著本主。虽然不死(死なないといっても)腰脊偻拒(腰が曲がる)。急急如律令!」と記されている。

 ほかの呪文も猫鬼など無形の蠱術を破解するのに用いられる。たとえば「天無梁、地無柱、魘蠱我者。環著本主。一更(夕暮れ)魘蠱不能行(行かず)、一午(お昼に)魘蠱不能語(語れず)。太山昴昴(泰然として)、逐殺魅光(魅鬼を殺し尽くす)。魅翁(父)死、魅母亡。魘蠱大小、駆将入鑊湯(追って大鍋の湯に入れる)。急急如律令!」など。

 宋人張が記す。ひとりの高僧が西域を旅する途中、蠱を飼う者が開いた旅店で食事を取った。食べ物が出されると高僧は目を閉じ、呪文を唱えた。しばらくすると小さな蜘蛛が何匹か碗の底から出てきて、碗の縁を這い出した。蜘蛛を殺したところ、飯を食べ終わったあと、平穏で何も起きなかった。高僧が念じたのはつぎの呪文だった。

「姑蘇啄、摩耶啄、吾知蠱毒生四角(われ蠱毒が四角を生むことを知る)、父是穹窿窮、母是舎邪女、眷属百千万。吾今悉知汝(われ今汝のすべてを知る)、魔訶薩魔訶」。僧侶の口から出たとはいえ、父母を侮辱し、家族の事情をあばく典型的な中国式呪文である。

 ほかの文献も呪文に言及している。「閩広(閩南と広東)では蠱毒を超生という。林宰家は二つの呪文を持つ。「本師未来、祖師来未、三百六十祖、莫能吾前要反生(わが前で生に反するなかれ)、急急如律令!」「本師来一、祖師来未、呪作牛、呪吃泄草入人腸、急急如律令!」

 またもう一つさらに簡単な蠱毒を予防する方法がある。それは閩広地区にまで到り、宿を借り、飯を食べる際に、まず主人に問う、「あなたの家に蠱毒はないですか」と。このように問えば、主人は蠱術をしようとは考えない。こういった質問の形式をとる呪文は明清期に広範囲で使われるようになる。