第4章 11 盗賊を制圧し、逃亡犯を捕まえる呪術 

(1)

 超自然的な手段を用いて盗賊を制圧し、逃亡犯を捕えるのは、東周の巫術の領域に出現した新しい現象である。戦国時代、原始宗教組織とその他の共同体組織は全面的に瓦解し、それぞれの家庭が社会基本単位となり、財産の私有化が進み、それとともに貧富の格差が広がった。人口が爆発的に増え、社会保障のない遊民的群衆が増えた。すると各地で盗賊が蜂起し、国家は盗賊を懲罰することで治安を維持したが、応対に次第に疲弊するようになる。社会や国家を満足させるために、呪術師は盗賊に対する呪術を研究するようになった。彼らは防盗(盗賊を防ぐ)、厭盗(盗賊を制圧する)、捕盗(盗賊を捕える)といった呪術を開発することになった。

 睡虎地秦簡『日書』甲種「盗者」篇では、専門家が盗賊はどんな容貌か、どんな場所に隠れるのか、盗賊を捕まえられるか、といった推断を論述している。それが依拠している論理は、十二の場所がそれぞれ動物に対応していることである。のちの人がいう十二生肖(十二支)だ。たとえば某日に窃盗を働いた人はその容貌の特徴と隠れた場所がその日の属する生肖の特徴と一致するという。「盗者」にはつぎのような描写がある。


<子日属鼠> 
 この日の盗賊は口が長くとがっていて、ひげはまばら、手なぐさみが好きで、色黒、顔はそばかすだらけ、耳にはかさぶたができている。家の庭にはゴミや雑草がうず高く積もっている。

<丑日属牛> 
 盗人はでか鼻で、首が長く、腕が大きい。猫背で、目の上にこぶがあり、牛の牧草地の草木のなかに隠れている。

<寅日属虎> 
 盗人の体は強権で、ひげはまばら、顔に黒斑があり、四肢はそろっていなくても塀に飛び上がることができる。また肩ががっしりしていて広いが、素焼きの瓦の合間に身を隠している。盗難に対処するため、西側の防犯を重視し、西門は朝閉じ、夕に開ける。

<卯日属兎> 
 盗人は顔が大きく、頭が大きく、頬が高い。鼻は膿の病気(蓄膿症)があり、草むらに身を隠している。この日盗賊に備えて北側の防犯を重視し、北門を朝閉め、夕に開ける。


 辰日から亥日までの盗人の描写はだいたい似たようなものなので、あえて引用することもないだろう。『盗者』には特筆すべき点が二つある。一つは、午日属鹿、未日属馬、申日属環(猿)、酉日属水(雉)、戌日属羊と、のちの属相の観念が異なること。申酉戌亥の盗みは「夙(朝早く)に得て、莫(暮れ)には得ず」、すなわちこの盗賊を早朝に捕えることができるが、晩には捕えることができないということになる。

 『日書』乙種には『盗者』と似た記述があり、冒頭には「盗」という表題がついている。どの干支の日に盗賊の状況がどうなっているかについては異なっている。甲日、乙日、丁日についての説明や文字には欠損がある。辛日、壬日、癸日については触れられていない。おそらくこの部分は欠落しているので、「天水放馬灘秦簡」を参照しながら『日書』甲書の関連する部分で補填することになる。

 「盗」篇の内容は以下の通り。

甲日、盗難にあう。盗人は西方の家屋のなかでぶらぶらしている。彼は五人家族を養っている。娘か母親は巫婆(ウーポ)すなわち巫女である。家の門の西北にあらたに三人の盗賊が現れる。

 乙日、盗難にあう。盗賊は三人。そのうちの一人が室内に入る。東方から侵入して窃盗をおこなう。逃げ去るとき、何か物を残す(「放馬灘秦簡」で補えば、辛日、壬日、癸日もおなじ。

 丙日、盗難にあう。盗人は遊び人である。男やもめでなければ、やもめである。家は西方にあり、耳にはかさぶたがある。歯が折れたばかりだ。

丁日、盗難にあう。盗人は女性である。家は東方にある。臀部に傷のかさぶたがある。五人家族を養っている。

 戌日、盗難にあう。家は南方にある。常習の盗人の仕業で、かつて塀に登るとき、歯を折っている。

 己日、盗難にあう。盗賊は三人。子はすでに死んでいる。(盗人は)家でぶらぶらしている。

 庚日、盗難にあう。盗賊は成年男子で家は西方にある。家の北側の塀に別の堅固な建物がある。この人物は汚くて不潔。肌は黒い。

 辛日、盗難にあう。盗賊は外部からやってくる女で、捕まえることができない。

 壬日、盗難にあう。必ず捕えなければならない。盗賊は男。草を刈っているとき、捕まえると死人が出る。

 癸日、盗難にあう。盗人は女。品行がよくない。捕まえられる。






⇒  つぎ(2)へ