(8)虫卵や卵房
雄黄(ヒ素の硫化鉱物)は古代において、疫病を除くために、虎狼を駆逐するために、鬼魅を避けるために、巫医が用いるとともに、生男霊物(男の子を生むための縁起物)としても用いられた。この法術を作った人は雄黄の雄の文字を見たのだろう。孫思邈はこの「変女為男法術」を記録する。「雄黄を一両取り、深紅の袋に詰め込み、これを帯びる(携帯する)。女は雌黄を帯びる必要がある」。
虫の卵や卵房は人類の生殖と表面的に似たところがあるので、男の子が生まれる霊物(縁起物)とされた。『胎産書』に言う、「懐妊したとき、蒿(こう)、牡(ぼ)、卑梢(ひしょう)の三つの薬を混ぜ合わせて服用すれば、かならず男の子が生まれる。すでに試したとおり」。
これは子を求める婦女が食事のとき三つのもの、卑梢、蒿草などを合わせて服用する。粉末にし、その粉を水に溶かして服用する。卑梢は、後代、一般に蜱蛸(ひしょう)、またの名を桑螵蛸(そうひょうしょう)という。[卑梢はつぎに述べるように、カマキリの卵のこと]
『産経』には14の桑螵梢を細かく砕き、それを酒といっしょに服用する生男法について書かれている。そのもととなったのは『胎産書』に書かれた方法だろう。蜱蛸、桑螵蛸とは、カマキリが桑樹上に産んだ卵、および卵を包む卵房のことである。卵房の「房の長さは一寸ほどで、親指の大きさである。そのなかが隔てられ(部屋のようになっていて)各部屋に蛆の卵のような子がある」。
古代の人はそれを用いて胎児の性別を改変しようとした。すなわち房内の「性」がどちらでああるかを妊婦に伝えようと考えたのである。ほかにも、螳螂(かまきり)またの名を当郎は、「両腕が斧のようで、当(まさ)に面と向かい合ったら回避できないことから当郎と名づけられた」。カマキリの形象が陽剛の気に満ちていることから、また当郎の名が「応当得郎」を連想したことから、カマキリの卵房はごく自然に術士から生男霊物(男の子を生む縁起物)とみなされたのである。
毛虫の卵房である「雀甕(じゃくおう)」と蜂房(蜂の巣)中の卵蛹は、漢代においては宜男霊物(男の子がよいとする縁起物)として用いられた。
『胎産書』は言う。「懐妊して三か月以内で、爵甕を呑めば、生まれる子は男の子である。いわく、爵甕中の北を背にした青い虫はこれを食べる。するとかならず男の子が生まれる。万全である」。
爵甕とは雀甕のこと。毛虫が木の上で作る繭のことである。その形は甕に似て、雀が喜んで繭の中の虫卵を食べるので、雀甕と呼ぶ。この書はまた言う。「蜂房の中の子、狗陰、干してこれを混ぜて、懐子がこれを飲む。すると懐子から男の子が生まれる」。
文中の懐子とは妊婦のことである。雀甕、蜂房と蜱蛸の構造が似ていることから、それらの霊化の原因は基本的におなじだと考えられたのである。