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 孫思邈(そんしばく)は方術の使用のほかに、薬を服用することで胎児の性別をコントロールすることができると述べている。医家は服薬と方術を使い分けていた。服薬に巫術的性質は必要ないのだ。ただ、彼らは変性薬物やはっきりしない原理に基づく処方を用いていた。なおかつすばらしい薬物と(そうではないものを)混ぜて用いた。本物と偽物を見分けるのは非常にむつかしかった。

 たとえば一部の医師は、妊娠三か月以内に蚕屎(さんし)を服用し、東向きの楊柳の枝を佩帯し、五茄(灌木)を床の下に置き、石南草四株を取って床下に置き、宜男草(萱草)、つまり忘れ草を食用にするか佩帯すればよかった。どれも「必得男」(かならず男の子が得られる)の効果があった。こういった薬は巫術霊物(巫術の縁起物)と大きな違いはまかった。


 孫思邈は「丹参丸方」なるものを挙げている。それは妊娠したことを自覚し、飲食や起居に注意を払って、胎児を守ろうとする婦人のための丸薬である。それによって、女の子の胎児を男の子に転じさせることができる。丹参丸は、丹参、人参、干姜、冠纓、甘草、犬卵、東門上の雄鶏頭など十九味の薬物に蜂蜜を加えたもの。

このなかでも冠纓(灰)[帽帯のこと。役人であることを示す]、犬卵、東門雄鶏頭の三味薬はあきらかに巫術霊物(呪物)である。冠纓の作用は夫の衣冠に相当する。犬卵は『胎産方』中の「狗陰」に相当する。東門雄鶏頭は雄鶏毛(羽根)に相当する。この三味薬によって女の子を男の子に変えるというのは巫術原理である。丹参や人参などを用いる「薬養胎」とは一線を画すことになる。丹参丸は医術と巫術の共同作業の産物なのである。

 巫術の実践のなかでは、宜男霊物(男の子をもたらす縁起物)は、つねに総合的に運用する。『胎産書』には、大禹の質問に幼頻(ようひん)が回答する形式で書かれている。懐妊後三か月は、胎児の性別を決めるカギとなる重要な時期である。男の子が欲しければ妊婦に命じて「孤矢を置き、雄雉を□(射?)ち、牡馬に乗り、牡虎を見るといい」。

 『産経』にも伊尹に仮託して述べている箇所は上述の文とよく似ている。「賢母が身ごもったなら……文武の兵器で遊び、弓矢を持ち、雄雉を射て、牡虎を見て、馬犬を走らせば、生まれてくる子供はかならず男の子である」。

 術士からすると、妊娠三か月の婦女が、男性がつねに持つ弓矢を手にし、雄の野鶏を射て、雄の虎を見て、男の子が好きな犬馬の遊戯をして遊ぶなら、抗えないほどの力が集まり、胎児は男の子になっていくしかないのである。