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古代に流行した生子巫術には、生子富貴法術(生まれてくる子供を富貴にする法術)も含まれていた。
ひとりの人間の運命が、母親のお腹の中にいるときにすでに決まっているとする観念の起源はきわめて古かった。生辰八字を根拠に、富貴と貧賤(ひんせん)および一生の間にどんな目に遭うか予測するのは命理家の方法だった。秦簡『日書』中の「生子」篇に「甲寅の生子はかならず吏となる(甲寅の日に生まれた者は役人になる)」「乙丑の生子は貧しくて病気になる」といったぐあいだ。
『医心方』巻二十四に引用する『産経』には二十余種の相子法が記されている。ただ実際は、「甲子年生、寿九十、麦を食す」「正月男の子が生まれ、兄弟を妨げる」といった怪論にすぎない。
生子富貴論とこれら予測法はどちらも、運命があらかじめ決まっているという観念の基礎のうえに成り立っていた。違いがあるとすれば、予測法は否定的になりがちであり、胎児の運命は上天で決定されるという認識があったことである。一方の生子富貴術は、超自然的手段によって胎児の運命を制御できるし、確定することができると考えた。
胎児の運命を制御するために、象徴的な霊物(縁起物)を使用する。それには虎鼻、蛤蟆(カエル)、男子の冠纓(帽帯)も含まれていた。
古い方術書『竜魚河図』は言う、紋虎の鼻を門に掛けるのは「宜官」のしるしであり、子孫はみな官印を身につけた。虎鼻を門に掛け、一年後にそれを取り、燃やして灰を作った。そして婦女にそれを水とともに服用させた。「二か月で子供あり。貴い子を生む」。
術をおこなう者はこの法は秘密であると強調する。「人に知られてはいけない。(世間に)漏らせば効き目がなくなる。また婦人がこれを見てはならない」。
陶弘景、李時珍、張宗法らはみなこの法術を信じた。虎は獣の王である。虎の鼻を掛けたのは虎の威が胎児に伝わると考えたからだった。長じてその子は出世するかもしれない。しかし「婦人はそれを見てはならない」といった要求をしたところで、何かが変わるわけではない。虎の鼻を門に掛けて、一年以内に婦人がそれを見つけないわけもなく、術士らは丹薬を使用することなく終わるだろう。
『枕中方』には方法の一つが記されている。「井戸の中のカエルを戸の上に置くと、生まれてくる子はみな貴い」。
漢晋代の術士はみなカエルが辟兵(武器を避けること)の効能があると信じていた。カエルは武器による傷害から人を守ったので、道家から見ると、権力や宝物以上に価値ある命といえた。本来カエルは辟兵霊物(武器を避ける魔除け)として用いられたが、ここでは貴い子をもたらす霊物(縁起物)となった。