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古代に比較的行きわたっていた致孝術(孝行させる法術)に、ブタの肝や犬の肝を泥土と混ぜて炉や竈(かまど)に塗るというのがある。
『雑五行書』に言う。「竈神の名を禅という。字(あざな)は子郭。黄衣を着て、夜、髪を振り乱してかまどから出てくると、その名を知るとこれを呼び、凶悪を除いた。ブタの肝を買って泥と混ぜてかまどに塗り、婦女に孝順ならしめよ」。
非常に早くから人は「圏養」という方式でブタを飼っていた。もともと養豚を表す文字は「豢(かん)」だったが、「圏」にとって代わった。臥圏(がけん)と順従は、妾や婦女が孝行でないことを恐れる人からすると、貴いすぐれた点だった[臥圏も服従を表す言葉]。
古代医学の解釈によれば、肝(肝臓)と心臓はともに情感を調節することができる。豚肝泥竈術(ブタの肝を泥と混ぜてかまどに塗る術)とは、家神(家庭の主神)の竈君(そうくん)の威厳によってブタ肝が産出する品性を婦女の体に伝達しようというのである。
これと似たものとして、家犬は六畜[牛、馬、羊、豚、犬、鶏]のなかでも忠臣と見られているが、それゆえ犬の肝と泥を混ぜたものとかまどは孝行をもたらすのである。
張華は言う。「犬の肝と土泥竈は妻、側室を孝順にさせる」[土泥竈は泥土から造るかまどで数千年前からある最古のタイプ]。
清代の張宗法は言う、犬の肝はブタの肝より効果があると。「ブタの肝と泥をよく混ぜる。犬の肝を用いるならさらによい。賢い嫁(息子の嫁)を呼んで(かまどの手直しを)させるといい」。
伝説中の職人がひそかに厭鎮物を置いて凶をもたらすことができるように、吉をもたらすこともできるはずだ。巫術霊物の性質と作用は、施術者の意志があってはじめて念じて移転できるもの。施術者はしばしばただ一点に着眼して霊物の効能だけ選んで取り出し、しばらくの間霊物のその他の効能を排除する、あるいはおろそかにしがちだ。
ブタ肝泥竈術の目的は「婦女に孝行をさせる」ことである。しかし施術者は、婦女が終日なにもせず、ただ飽食に明け暮れる女になるかもしれないことを考慮しようとしない。
犬肝泥竈術の目的は、妻や側室を忠誠心がある孝行の女に仕立てることである。しかし施術者は、犬肝が犬の尾のように夫婦仲を悪くし、婦女を役立たずのガミガミ女にすることもあるのを考慮しようとしない[この犬の尾のたとえはわかりにくい。「狗尾続貂」(すぐれた者につまらない者が続くたとえ)を踏まえているのか]。施術の効果は施術者の心理状態に依拠しているのである。これはまさに巫術の特質である。
『雑五行書』に言う。住宅の西側に五株の梓樹、あるいは五株の楸(キササギ)を植える。これによって「子孫は孝行者になり、口舌(いさかい)はなくなる」。五行学説によれば、西方は金に属す。金は凄涼粛殺(非常に寒いこと)の気を代表する。家の西側に梓楸(ししゅう)を植える。金気を圧伏すればほとんどの場合、家族生活の調和が保障される。
この種の法術とは、一点だけ取って他のことは考えない法術のことである。五行の式から推し量ると、西方の金行の地に梓楸を当てるのは、金に対して木を当てるに等しい。それは卵で石を打つようなものである。