ウィッカとは何か 

ソフィー・コーニッシュ 

 

 いま、あなたが森に入ると、そこには大きな驚きが待っているかもしれない。深い森やそのなかの開けた草地に、ウィッチ(魔女)のカヴン(魔女の集まり)があるかもしれない。かれらは土俗の古代異教の神々を崇拝し、歌ったり、太鼓をたたいたりして、祝宴に興じ、神々がわれわれに与え給うた命を堪能しているだろう。かれらはまた大地や病気の人々を癒すために魔術を用いているかもしれない。あるいは古代の占いを実践しているかもしれない。かれらはウィッカ、すなわち古代のウィッチクラフト(魔女宗)の技能、魔術、信仰を実践しているかもしれない。

 昨今、ウィッカやシャーマニズム、ウィッチクラフト、ウィッチ、ワイズ・ウーマン、カニング・マン、マジシャンといった言葉をよく耳にする。それらはどういう意味なのだろうか。ウィッカとはウィッチクラフトの宗教のことである。それはたんなる魔術(マジック)のシステムを意味する言葉ではない。ウィッカン(ウィッカを実践する人)の共同体のなかでウィッチクラフトはもっとも重要なものであり、特別な意味を持っている。ウィッカは女神や神を奉じるペイガン(異教)的秘教なのである。それはまた自然宗教でもある。それは過去の遺物でも、16世紀や17世紀の魔女裁判の名残というわけでもない。この信仰の発祥を古代にたどることができるが、それは現在の世界に生き残っているだけでなく、さかんに実践されているのだ。

 私はウィッカの訓練をまず英国ではじめたが、そのときから北米やオーストラリア、全ヨーロッパのウィッチ(魔女)たちと実践をおこなうようになっていた。それぞれの国が独自のウィッチクラフトの伝統を持っている。ヨーロッパの伝統がまずあげられるべきだが、たとえば米国の場合を見ればわかるように、ネイティブ・アメリカンの精神性や西アフリカの伝統の影響を受けて独自のものを形成している。ウィッカはそれゆえ現代の必要性に応じてつくられた数多くの信仰システムの統合体といえるだろう。

 ウィッカという言葉はアングロサクソン語のウィッチを意味するウィッチェ(Wicce)から来ている。もともとこの語はウィッチャと発音されていたが、現代になってウィッカと発音されるようになった。ウィッチという語も経緯はわからないがそれから派生した語である。その語からシェークスピア劇『マクベス』の三人の魔女、すなわち「陰険なもの」「醜い老婆」、「禁断のもの」の姿が生まれた。黒いキャンドル、ほうき、毒、針を刺したろう人形、呪文「ハブル、バブル、トイル、トラブル」、大釜、墓場などが彼女らのイメージである。だれにとっても彼女らの姿はいかがわしかった。またウィッチ(魔女)には吸血鬼というイメージもあった。パワーを持つ女がセクシャルなエネルギーを使って男をおびきよせる。ギリシャ神話では魔女キルケーがその手を使って英雄オデュッセウスの部下たちをブタに変えている。

 ウィッチのポジティブなイメージを見つけるのはむつかしいが、じつは民間伝承や子供のための物語のなかなら珍しくない。そこにあらわれるのは親しみやすいおばあちゃんだ。森の中の山荘に暖かい暖炉のそばで丸くなった大きな黒猫と暮らす銀灰色の髪のすてきな老婦人である。彼女は妖精の教母であり、魔法の杖によってすべての病気を癒すことができる。テレビドラマのウィッチ(魔女)だっている。「奥さまは魔女(Bewitched)」というドラマを記憶している人も、あるいは再放送を見たことのある人も多いだろう。これは子供時代私が好きなドラマだった。でも魔女のサマンサがなぜ退屈な男ダレンと結婚したのか、なぜ鼻をピコピコ動かして家事をすることに抗議するのか、私には理解できなかった。それはとても敏感な問題に私には思えた。

 ウィッチのイメージにはポジティブなものもあればネガティブなものもある。しかしそれらには共通する面がある。そしてそれはだれが、そしてどういうものが本物のウィッチであるかの手がかりを与えてくれる。ウィッチは魔術の作り手であり、ウィッチは女神を、すなわち大母女神を信仰する。かれらはまた有角神を崇拝する。ギリシャ神話では彼はパン神であり、ケルト人にとってはヘルネやケルヌノスである。言い換えるなら、ウィッチクラフトは宗教ということである。それは前キリスト教の宗教であり、起源は霧の向こうにあってよく見えない。それは民間伝承のなかに、あるいは国の土俗に受け継がれてきた素朴なペーガン(異端)の信仰の名残である。それらは公式に認められたペーガニズム(異端宗教)というべきローマ、ギリシャ、エジプト、あるいは秘儀信仰の宗教にないまぜになったものである。ウィッカは魔術的なサイキックパワーが発展した要素を含んでいる。それに智慧が加わって実践されるのだ。スピリチュアルな発展段階における秘儀伝授こそは、この信仰の本質的なものである。

 

⇒ いまの時代のウィッチとは?