宇宙卵神話 ――存在の起源―― 

宮本神酒男訳 

 キュンゴ(西チベット)で見つけた窪みの中の円い白石は宇宙卵?  

 存在の起源の神話(srid pa’i grol phug)については、『存在の起源の宝庫』(srid pa’i mdzod phug)やテンカ・ナムカ(dran pa nam mkha’)の論考のなかに詳しく語られている。存在と非存在の世界に、すなわち光と闇の世界に現れるのは、二つの宇宙卵(srid pa’i sgong nga)、すなわち輝く卵と暗き卵である。以下にこの神話を要約しよう。

 はじめに何もない空間があった。ティゲェル・クグパ(khri rgyal khug pa)の力によって気の元素である風が形成された。すなわちツェンティン(tshan ting)、ネンティン(nan ting)、ティンニ(sprin ni)といった風である(これらはシャンシュン語)。ツェンティンの本質は維持することと、分散されないことだった。ネンティンの本質は支えることであり、落伍は許されなかった。ティンニは熱の遮蔽物をもっていた。風の動きは光の渦を生み出した。それから熱のエネルギーが発生し、元素の火が生まれた。そして風によって冷やされた蒸気と火の熱から元素の水が露と霜として生まれた。そのときに物質の粒子(rdul phra rab 元素の地)が凝縮された。粒子は揺さぶられ、混交し、そこから大地と山が形成された。

 こうして形成された五つの元素から二つの卵、すなわち光の卵(’od kyi sgong nga)と闇の卵(mun pa’i sgong nga)が生まれた。神(ティギェル・クグパ)の強固な誓いの力によって、五つの元素の純粋な精髄から、四つの顔と八つの角を持った七歳の雌のヤク(grus ma)ほどの大きさの光の卵が形成された。メドブム・ナクポ(無限の黒い非存在)の強固な誓いの力によって、不純な精髄から、三つの角を持った寝そべる三歳の雄の牛(shad)ほどの大きさの闇の卵が形成された。

 自身の光と光線の力によって輝く卵が孵化した。そして宇宙に広がる清明な光から360のトルセ(’thor gsas 分散した神々)、すなわち美徳の行為を守る役目を負った光の人々が生まれた。下方に放たれた光線から生まれたのは、ダセ(mda’ gsas 矢の神々)、すなわち神々と人々の英雄精神を維持する役目を負った十万頭の馬を持つ一万人の人々だった。

 卵の精髄から生まれたのはティギェル・クグパの化身、すなわち腋まで垂れる髪に七つのトルコ石を飾った人の形をしたシパ・サンポ・ブムティ(srid pa sangs po ’bum khri)だった。彼は存在、完全、善良(dkar 白色の意)、美徳の王だった。

 漆黒の闇の世界に黒い卵は孵化した。上方に照らされた黒い光から暗闇、暗澹(gtibs)、朦朧(rmugs)が生まれた。下方に広がる光線から狂気、暗澹、朦朧が生まれた。卵の精髄から髪が三つの板に結ばれた黒い光の人が生まれた。メドブム・ナクポは彼にムンパ・セルデン(輝く黒い闇という意味)という名を与えた。彼は絶滅させること、からにすること、邪魔をすること、破壊することが好きな王だった。