聖なる狂僧
キース・ダウマン 宮本神酒男訳
1 ドゥクパ・クンレーはいかにして放浪する苦行僧となったか
そして苦難の海からいかにしてスムチョクマを連れて来たか
クンガ・レクパの足元にひれ伏します
10の敵を倒す弓矢を持つ者よ
二元論に堕ちる魔物を殺す猟犬の主よ
思いやり、慈しみ、忍耐の盾をかかげる者よ
ナルジョルパ(修行者)ドゥクパ・クンレーはきわめて高貴な家族の、そして霊的な系譜の出身である。後期仏教のインドには多くの成就者がいたが、その代表的な存在はナーロータパ(ナーローパ)だった。ナーロータパは雪の国に生まれ変わって、人々の人生に意味と目的を与える教えを広めたいと考えた。蓮を手にもつボーディサットヴァ(菩薩)の地の、ツァン地方東部ヤギャルの近く、完全満足の魔の山の峠を越えて、ニャント・サラルという場所に、遊牧民の大きな宿営地があった。そこにギャ家族のスルポ・ツァペという男が、妻のマサ・ダルキとともに住んでいた。ナーロータパはマサ・ダルキの子宮のなかに入り、当地の誇りとなるべく運命づけられた彼らの7人の息子の末子として生まれた。とくに祝福された末子のナーロータパは、「無比無類」「雪の国の太陽」「真実の主」「存在の神」「パルデン・ドゥクパ・リンポチェ」と呼ばれた。
パルデン・ドゥクパ・リンポチェは、第3周期の「女・鉄・蛇」の年(1161年)、すなわち「王の牡牛」の年に生まれた。彼の兄ラブムの息子から教師ボンタクが生まれた。ボンタクからはドルジェ・リンパ・センゲ・シェラブと高貴なる俗人センゲ・リンチェンが生まれた。センゲ・リンチェンからは偉大なる13代目センゲ・ギャルポが、センゲ・ギャルポからはジャムヤン・クンガ・センゲが、ジャムヤン・クンガ・センゲからは真実の大師シェラブ・センゲと智慧のボーディサットヴァの化身イェシェ・リンチェンが生まれた。イェシェ・リンチェンから秘密の神の化身ナムカ・パルサンと慈しみのボーディサットヴァの化身、シェラブ・サンポ、従者ドルジェ・ギャルポが生まれた。ドルジェ・ギャルポからは官吏リンチェン・サンポが生まれた。
このようなそうそうたる系譜の出身であるリンチェン・サンポの妻は、ゴンモキだった。ゴンモキは、真実の大師クンガ・レクパイ・サンポの娘として、第8周期の「木・ブタ」の年(1455年)に生まれた。
(つづく)