謎の巨石(ドリン)群
                                           宮本神酒男

カン・リンポチェ(カイラス山)から西南へ約40キロの平原に立つドリン(rdo ring)群。巨石といっても2mほどの高さ。白いカタ(聖なるスカーフ)をかけたのはチベット人だが、石を立てたのはサカ人やダルド人などの可能性が高い。

左のドリン群は上のドリン群からさほど離れていず、同じ人々によって立てられたと考えられる。墓のように見えるが、骨はいまだ出土していない。右のドリンは住居址に立つ。ここが廃墟になったあと、立てられたのだろうか。

クル地方のチャンダルカニ峠(海抜3700m)。ここを降りると、謎めいた村マラナに至る。自然の石とする説もあるが、あきらかにドリンである。伝説によれば、神々の数、すなわち数百の立石がある。ここに立つと瞬時に身が清められるように感じる。

チャンダルカニ峠のある場所にはドリンが集中し、古代より祭祀が行われてきたに違いないと感じさせる。はるばるラホール(Lahaul)から歩いてきたラパ(シャーマン)たちも古代人のように儀礼をはじめた。

四方で羊を屠って神に捧げる。血のいけにえは、残虐ではなく、神聖なるものなのである。

ラホール(Lahaul)地方のウダイプールの道端に立つドリン。ここには古くからいくつもの聖なる寺院が建ち、聖地であることにまちがいはない。ただしこれらのドリンがいつ、だれによって立てられたかは不明。

これもウダイプールの片隅に立つドリン。よほど注意しないと見過ごしてしまいそう。

キナウル地方のカルパ(旧名チニ)は、古代、重要な場所だった。シャンシュン国の町だったとも言われる。この円形の庭が何なのかよくわからないが、祭りのとき、ここが出発点・終着点となることから、祭祀の場所だったと推察できよう。

おなじくカルパ。りんご園のなかの空き地に立つ。最近もバラモンによって行われたと思われる儀礼のあとが残っていた。

クル郊外の丘の上の聖地に建つビジリ・マハー・デーヴィ寺院のすぐ下にも、謎めいたドリンがあった。神様が自然に姿を現したと言われるが、言い換えれば、その起源が古すぎて、だれにもわからないということだ。