夢見る者の死者の書 

ネラの冒険 

 

妖精の丘エリンはハロウィーンの頃いつも開かれている 
                         ネラの冒険(Echtra Nerai 

 

エクトラ・ネライ(ネラの冒険)のもっとも古い写本は1782年に筆写されたものだが、その起源はそれよりもはるか昔にさかのぼることができる。それはハロウィーンの「挑戦」の物語である。それは人生や正気、世界の王国などあらゆるものを危険にさらしかねなかった。

 話はアリル王とメイヴ女王のコノート王国にはじまる。もし私たちがこの古い物語を聞いたことがあるなら、まさに彼らの名前こそが、魔術やセックスに関する警告を発しているのであり、危機が迫っているということなのである。

サワン(Samhain)祭の夜の前に二人の捕虜が木から吊るされ処刑された。彼らが吊り下げられている木は翌日まで切られことはなかった。うつろの丘が開き、亡霊や悪魔、シーの王侯たちが赤い血で飾った馬に乗ってやってくるとき、遺体に触れるのは、マーフィー以上に悪運をもたらすことだとだれもが知っていた。

 国王は兵士たちの度胸を試し、メイヴ女王の前で彼らを困惑させることに決めた。女王の性的欲望は大きく、王宮のあちこちの木陰で若者と楽しんでいた。アリル王は若い兵士たちに、木から吊り下げられている遺体の足に柳の枝のバンドをかけることのできる勇気のあるものはいないかと問うた。成功すれば王の黄金の柄(つか)の剣を差し上げようと請け合った。

 兵士の一部は「挑戦」に応じたが、挑戦したあと、ぶるぶる震えながら支離滅裂なことをしゃべり、亡霊や魔女がどうのこうのとつぶやきながらすごすごと戻ってきた。

 ネラという若者が挑戦することにした。彼は遺体が動いても、また柳のバンドを縛り付けようとしたとき遺体が話しかけてきても、動じなかった。死んだ男はネラの背中に蜘蛛のように飛び移り、首に足を巻き付けて締め上げた。その力はすさまじく、足をどけることも振りほどくこともできなかった。

 死んだ男はのどが渇いてたまらなくなっていたので、ネラに、自分の体をどこかの家に移すよう要求した。家ならのどの渇きをいやすことができるだろうと思ったのだ。

 ネラは隊商のロバのように命令されるままに遺体の男を運んだ。最初の家はまわりに炎の輪があり、死んだ男は中に入ることができなかった。二番目の家は堀に囲まれていたので、遺体の男は敷居をまたぐことができなかった。三番目の家は開放されていて、すべてが乱雑に置かれ、きちんと整頓されていなかった。バスタブには汚れた水が張られ、鍋の中には汚水と糞尿が入っていた。家の人はそれらを清潔に保とうという気はないようだった。けがれた飲み物はふんだんにあった。餓鬼どもにとってはこういったものは神饌であり、甘露のようなものだった。彼らはこの開かれた家に入り、死んだ男は音を立てて見えるものすべてを食べ、飲んだ。そして最後の数滴を家人に向かって吹くと、彼らはみな死んだ。

 いまや満足した遺体の男は絞首台に戻った。ネラもまたクルアチャンの宮殿に戻り、ヒッチハイカーから解放されてホッとしたが、すべてが変わっていることを知った。シーの主人たちはアリルの王国を破壊し、宮殿は炎に包まれてしまったのである。国王や仲間たちの首はシーのおぞましい兵士らによって地下に運ばれているところだった。

 ネラは彼らについてクルアチャン(現在も地下世界への入り口として有名)の洞窟の入り口から中に入っていった。するとわれわれの世界の下に世界があり、そこで彼は歓迎を受けたのである。切られた首がどの洞窟にあるのかはわからなかった。

地下世界の王はネラを熱烈にもてなした。ネラは毎日王のために薪を運び、そのお返しに食べ物と宿とセックスをいただいた。彼には魅力的なシーの女が妾として与えられた。彼は女を抱くと至極の喜びを覚えたが、アリル王の宮殿が炎に包まれているシーンを思いだしてぞっとせずにはいられなかった。彼の他界の花嫁は、彼が見たのは未来に起こるできごとだと告げた。それらはハロウィーンのあとに起こるのである。つまりネラが戻って人々に警告をすれば、避けることができるのだ。

彼女はネラのことを愛していたので、彼をひそかに地上に戻そうと考えた。それからネラが驚いたのは、地上と地下とでは時間の流れが違うということだった。地下の宮殿では何日も過ぎたようでも、地上のアリル王の宮殿では時間がたっていなかった。ネラがこの話を宮廷でしたとき、ネラは挑戦の受け入れを表明したところだった。人々はネラが話を作っているのだと考えた。ハロウィーンだというのにおぞましい話も恐ろしい話もなかったからである。彼の他界の花嫁は彼を信じさせるために、地上世界ではとっくに絶滅した夏の果実を見せた。

 ネラは地上の世界に戻り、シーによる攻撃について話をすると、アリルの宮廷の人々と国王は信じた。アリルは機先を制して、クルアチャンの下のシーを攻撃するために準備を整えた。王はネラに地下世界の女と、ネラが地上にいる間に生まれた子供、そして物語で重要な役割を果たすことになる子牛を連れ出す許可を与えた。アリルとメイヴは地下へ降りて、勝利をつかみ、それから井戸に隠されていた妖精の王冠など宝物をもって他界から地上に戻った。しかしネラはシーの人たちに触れていたので、彼は姿を消し、妖精の花嫁とともに地下世界へ戻った。そしてこの世の終わりまで、その姿がふたたび見られることはなかった。

 ネラの冒険が現代の私たちに教えてくれるのは何だろうか。それは境界の時間、境界の場所にセットされているが、実際境界の瞬間、すなわち二つの世界の門が開いた瞬間であり、いわばいつでもいいのだ。招待されようがされまいが、さまざまな理由から(このあとの章でわれわれはそれについて探索していくことになるが)死者は戻ってくる。郊外の葬儀場からベトナムの血に染まった戦場まで個人的な体験や観察から、遺体との物理的接触から汚染が引き起こされることは理解するようになった。より正確に言えば、より適切な用心がされなければ、死者がネラの背中に飛び移ったように、死者から生者に望まないエネルギーが移るということである。

 死者が生者に執着するとき、彼らはとらわれていること、考え、欲望、そして症状までを移そうとする。私たちはしばしばこの中毒症状と戦っているが、あるいは戦っているだれかを知っているが、生きている者に乗って飲み物を探す様子はあきらかに教育的であるといえる。だれかが首の痛みを訴えるとき、そして痛みの原因を説明できないとき、私はいつもネラの物語を思い浮かべる。生きている者は死んだ者の体を運んでいるのだ。

 ネラの体験に導かれて私たちは魂の保護について考えるようになる。彼に乗った死者は火や水に守られた家に入ることができない。そこでは人々は、健全な魂の境界線を作っているのである。火は浄化力を持ち、水は地に縛られた死者のエネルギーのような濃密なエーテルのエネルギーを吸収する。

 餓鬼に対して開かれた家は人々がけがれを気にしていない家である。

 物語にはまだまだ多くのメッセージが含まれている。ネラが死者の世界に入るとき、彼はもはや境界の時間に縛られることはない。彼ははるか未来を見ることができる。しかし彼は贈り物(才能)を認識することができず、その使い方を理解するためには助けが必要となってくる。彼は他界の花嫁である妖精の恋人から教えてもらう。彼女はネラに私たちすべてが知るべきことを教えるのだ。もしわたしたちが未来を知ることができるなら、それをよりよい方向に変えることができるはずだ。

 この知識を武器にネラは人々を破滅から救う。

 しかし彼は他界のより深いところへと行ってしまう。そのためもはや地方の人間というより他界の人間である。二つの世界に同時に存在するのは容易なことではない。