2章 (要約) 

 ある日ゴンサはあてもなく湖岸をぶらぶらと歩いていた。湖面の照り返りや波、水の音などが、ナーガの世界や両親、家族の記憶を呼び覚ました。故郷のことがなつかしくてたまらなくなった。目に涙をためて、彼女は両親やパドマサンバヴァを焦がれる歌をうたった。

その瞬間、灰色の駿馬にまたがった父親、すなわちナーガ王が現れた。彼は娘を勇気づける歌をうたい、助言を与え、如意宝珠を贈った。全身が喜びに満たされ、心は明晰になり、彼女は目に見えるすべての現象に打ち勝つことができた。それから彼女は湖岸でいつのまにか眠りに落ちていた。

 彼女の夢の中に、南西の方角から白い雲に乗ったパドマサンバヴァがやってきた。彼は黄金の五鈷(金剛杵)を彼女の頭頂の上に置き、予言を与えた。

「奇跡的な力を持った子供があなたから生まれくる。その子供はすべての暗黒の力、悪魔、マーラを調伏するだろう。彼はチベットの王となり、隣接する4つの主要な、そして8つの小さな野蛮な国々を征服し、彼らの支配者となり、グルとなるだろう。

彼が生まれるとき、最初の飲み物を捧げるのは、おまえの父、ツクナ・リンチェンである。最初の衣を捧げるのはニェン神(地の精霊)である。最初に彼に応じるのはもちろんおまえだ。最初に食べ物を捧げるのは、マギャル・ポムラ(当地の山の精霊。ボーディサットヴァと目される)である」

 こうした予言が示されたあと、しばらくして彼女は数々の奇跡的な前兆とともに妊娠した。妊娠している間、彼女は胎内のジョルと何度も会話を交わした。

彼が生まれてくるとき、パドマサンバヴァは美しい歌をうたい、ウェルマ神やその他の守護神に守られるように、また武器や大臣に恵まれるようにと祈った。彼が目覚めた事業を成し遂げるために必要なものすべてがそろえられることになった。

 ジョルの兄ギャツァ・シェーカルはこの宝のような子供の誕生を喜び、チプンに助言を求めた。彼はいくつもの驚くべき徴(しるし)を見出した。たとえばジョルは生まれて三日で、生後3か月の赤子のように見えた。ギャツァは、この驚くべき子供のめに特別な儀礼が必要かどうか、また安全と幸福のために何か策を講じるべきかどうかたずねた。チプンは、ムクポ氏族の基本経典にしたがい、彼のところにやってくるすべての有害なものから守らなければならないとこたえた。彼らの会話でこの章は終わる。