シャーマンを追い続けるうちに嗅覚が鋭くなったのか、私はシャーマンの誕生という劇的シーンに居合わせることができた。しかもシャーマンは11歳の美少女だった。
カトマンズからバスで2時間半、そこから2日間歩いて、丘を越え、ダディン地区のチェトリ階級(アーリア系)の村を訪ねたときのこと。なにやら騒がしいので村人に聞くと、小学校教師の娘が神憑かり、自宅の庭の隅を掘れというお告げをのべたというのだ。
翌朝早く、森を抜け、こじんまりとした小学校教師宅を訪ねると、庭を囲う膝ほどの高さの石垣の外ですでに数人の村人がせっせと土を掘り返していた。1メートル以上の深さの穴の横で作業をじっと見つめているのが、神憑かったという娘だった。この眉毛のくっきりした愛くるしい少女が本当にシャーマンなのだろうかと、私はいぶかしく思った。
村人によれば、最初に神憑かったのは半年ほど前のことだった。教師の父親が鬱病にかかり、近隣の村からタマン族のシャーマンが呼ばれ、治療儀式を行おうとしたところ、突然娘が神憑かり、「お前は村に帰れ。病気は私が治す」と告げたというのである。本格的に治療活動を始めたのは私が訪ねる1週間前のことで、すでに3人の患者を治療したという。憑いた神は、マハー・カニヤ・デーヴィという女神だった。
3時間以上掘ってもなにも出てこなかった。すると少女は家の入り口の前に座り、灯明の芯を舐めたり、香を嗅いだりしながらブルブル震え始め、おとなの男のような荒い声でなにやらお告げを言い始めた。探す場所がすこしずれているというのだ。村人らは仕切りなおして穴の横を掘り続け、1時間後、50センチもの大きな石が出てきた。これに神が宿っているというのだ。鳥を殺して血を捧げる儀式を行い、石は晴れて神石となった。そしてまた少女もいわば一人前のシャーマンになったのだった。