イスラムにシャーマンあり

 昨10月下旬深夜、中国新疆ハミ市のホテルの部屋にドカドカと入ってきた8人の制服警官によって私は拘束された。昼間にウイグル族のシャーマン儀礼を見たこと自体が犯罪行為だというのだ。ソファにふんぞり返る共産党の穀田氏に似たボスに麻薬密売犯のごとき扱いを受けた。逮捕劇の顛末はまたどこかで語るとしよう。

 ハミ市郊外70キロの砂漠の中にある四堡村。ムハマド(40)は17歳のとき大バクシ(シャーマン)に弟子入りし、10年前に師匠が他界したあと自立した。

 翌日、彼の家で治療儀礼がおこなわれた。セッティングから興味深かった。床のレンガをはずし、天井も壊して、部屋の中央に太くて丈夫なロープを張る。これぞ宇宙軸。ウイグル族はもともと突厥(つまりトルコ)であり、遊牧民の頃はユルト(テント)を使っていたのだろう。患者(その日は中年女性)は白頭巾に白装束といういでたちでロープにしがみつく。先代の助手も務めた3人の老人たちがまずコーランの一節をよみあげ、神に祈ったあと、太鼓を叩きながら、歌をうたう。バクシも「おまえたち(魔物)は去るのだ。去らねばならない」と歌い、ロープの周囲を踊りながら回り、神剣や鞭を患者に対しふりかざす。活きた鶏を患部に当て、邪気を吸い出すかと思えば、患者を足で蹴っ飛ばす。荒治療である。患者もまたトランスがかっていく。太鼓によるビートが効いているせいか、ノリがすごくいい。室内の儀礼が終わった後、外に出てバクシはたいまつの火で患者を浄化した。古代ウイグル族はマニ教を主に信仰したが、ゾロアスター教徒(拝火教徒)もいたので、その影響があるかも、と考えると胸が高鳴った。

 詳細はここでは描けないが、イスラム教とシャーマニズムがないまぜになっているのはものすごく珍しいこと。世界でもウイグル族だけではないかと思う。

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